
この旅のこと
坂と文学と映画の街、尾道。古い木の家を借りて、瀬戸内の蛸でタコ飯を炊き、縁側で昼ごはん。坂の途中のコーヒースタンドで猫のクッキーと栗のプリンを味わい、猫の細道を抜けて、尾道水道を見下ろす。白い暖簾の日本茶の店で冷茶を飲み比べ、猫のいる路地を歩いた一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
坂と文学と映画の街へ
広島県の尾道に来ている。駅の近くの高架を貨物列車が渡り、坂を少し上ると、三重塔の向こうに瓦屋根の町並みと尾道水道が広がった。山の上では、千光寺へ渡るロープウェイが行き交っている。
坂と文学と映画の街。林芙美子や志賀直哉が暮らし、小津安二郎の『東京物語』や大林宣彦の尾道三部作の舞台にもなった。今回お借りしたのは、二階に手すりの付いた木の家。縁側の戸を開けると、目の前に町の屋根が連なっていた。
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秋晴れの朝
秋晴れの、心地よい日差しの朝。畳の部屋には布団がきれいに畳まれ、二階の手すりの向こうに瓦屋根と青空が見えた。窓を開けると、向かいの斜面に家々と緑が重なっている。
廊下の突き当たりには、楕円の窓が切られた白い壁。尾道には名物の食べものがたくさんある。今日は、そのひとつを台所で作ってみることにした。
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地物の蛸で、タコ飯を
瀬戸内の海産物も、尾道の名物のひとつ。そんな地元の蛸を使って、タコ飯を作ってみよう。まずは人参を細い棒状に切り、ゆでた蛸の足をひと口大のぶつ切りにする。
黒い鍋に米と蛸、人参、油揚げを入れ、醤油で味をつけて炊く。蓋を開けると、醤油と蛸のおいしそうな香りが広がった。しゃもじでさっくり混ぜると、桜色の蛸がご飯の間から顔を出す。
光の入る広間は、ガラス戸の向こうに庭と町の緑。炊き上がりを待つあいだ、赤い照明の下でしばらく眺めていた。
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縁側で、作りたてを
炊きたてのタコ飯を白い茶碗によそい、刻んだ青ねぎを散らす。その土地の食材で郷土料理を作り、作りたてをその場所でいただく。そうすると、その土地のことが、より好きになる。
庭に面した縁側の丸いテーブルに、鍋ごと運んだ。箸でつまむと、蛸の歯ごたえと醤油の香り。庭の木と黒い板塀の向こうに、町の家並みがのぞいている。秋の光の中の、ごきげんな昼ごはんだった。
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坂の途中のコーヒースタンド
玄関の楕円の窓から光が差す。家を出て、細い路地を歩いた。たどり着いたのは、線路のそばの小さなコーヒースタンド。猫の顔の形をしたクッキーをひとつ手に取る。この猫のモデルは、店主の愛猫だそうだ。
レトロでかわいらしい店内にぴったりのプリンに、栗のクリームがこんもりとのっている。この季節だけの、濃厚なおいしさ。紙コップのコーヒーと一緒に、窓辺でゆっくり味わった。そうだ、栗拾いもしてみたいな。
軒先に出ると、架線の向こうに線路沿いの標識が見えた。この店は、その後、別の場所へ移転している。
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猫ごよみ
店には、ものすごく気になる本が置いてあった。『猫ごよみ365日』。一日一匹、色も柄もさまざまな猫が並ぶ表紙に、ページをめくる手が止まらない。猫と一緒に季節を感じてみたいものだ。
窓の外には、国道の青い標識と電柱、そして線路。店を出て、ツタの這う石垣の下をくぐり、軒先のテラスを抜けた。
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猫の細道
白黒の猫が、植木鉢の脇でこちらを見ていた。ここは猫のアートが楽しい路地裏、「猫の細道」。壁には猫のタイルや絵が貼られ、「福石猫の聖地」の立て札が木立の間に立っている。
天寧寺の三重塔のそばから続く約200メートルの細い路地で、1998年から、丸い石に猫を描いた福石猫が置かれるようになったという。時計の壁画の下を抜けて、先へ進んだ。
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坂の上から、尾道水道
町並みに寄り添うように、鉄道が走る。赤茶けた鉄塔の向こうを、コンテナを連ねた貨物列車が通り過ぎていった。急勾配の坂道を下りていくと、家々の屋根の先に尾道水道が見えてくる。
尾道水道は、本土と向島の間を流れる細い海。町と橋と港が、ひとつの箱庭のように収まっている。坂の上に立って、しばらく眺めた。以前、春に訪れたときは、同じ景色が満開の桜に縁取られていた。
沢山の魅力が詰まった町だ。石段の脇では、茶色の猫が気持ちよさそうに撫でられている。彼らにとっても、居心地のよい町なんだろう。
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白い暖簾の日本茶の店
石垣の細い路地に現れた、白い暖簾に心惹かれる。傾斜地に建つ古民家を改装した、見晴らしのよい日本茶の店だった。窓の向こうに町並みと海。棚には茶碗が並び、昔の台所の流しや、小さな天秤ばかり、茶筅が置かれている。まるで当時の生活が目に浮かぶようだ。
珈琲はわりといろいろ飲むけれど、日本茶は初心者である。棚には「ALL ABOUT TEA」の袋と、産地や品種を記した説明書きが並んでいた。それぞれ香りが違って面白い。
冷茶の飲み比べセットに、甘味を添えて。グラスには氷に浮かぶ緑と琥珀の二色のお茶、小鉢にはたれのかかった白玉。驚くほどに香り高く、甘みも感じる。畳の間から海を眺めながら、「日本茶の素晴らしさに出会う」の巻、だった。
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気になる店名のパン屋さん
気になる店名のパン屋さんで、昼食を買おうかな。白壁の路地を上っていくと、店先には絵本『ネコノテパンヤ』の貼り紙。尾道に実在するパン屋さんが舞台のお話だという。ところが、お目当てのお店はこの日、定休日だった。
それでも、石畳の坂を下りれば海が光り、通りには「尾道ラーメン 丸ぼし」の赤い看板。尾道の借り暮らし、満喫中です。
この場面から映像で見る6:07THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの尾道メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

HIBI COFFEE(ヒビコーヒー)
坂の途中、線路のそばにあった小さなコーヒースタンド。自家焙煎のコーヒーと、猫の顔の形のクッキー、季節の栗のクリームをのせたプリンをいただいた。クッキーのモデルは店主の愛猫だそうだ。撮影のときは東土堂町の線路沿いにあったが、その後、店は移転している。

白い暖簾の日本茶の店
傾斜地の古民家を改装した、見晴らしのよい日本茶の店。冷茶の飲み比べセット(緑のお茶と琥珀色のお茶)に、たれのかかった白玉の甘味を添えて。お茶ごとに、産地と品種を書いた説明書きが付いてくる。

ネコノテパン工場
広島県尾道市東土堂町7-7
車の入らない入り組んだ路地にある、古民家を改装した小さなパン工場。この日は定休日で、店先には、この店をモデルにした絵本『ネコノテパンヤ』の貼り紙が出ていた。
出典: ononavi.jp
02作った料理

タコ飯
三原市・尾道市・福山市に伝わる広島県の郷土料理。漁師が船の上で獲れたての蛸をぶつ切りにし、ご飯と一緒に炊いて食べた漁師飯が起源とされる。瀬戸内海は有数のマダコの生息地で、三原沖は水質がよく岩場も多いことから、江戸時代から蛸漁が盛んだった。潮の流れが速いため蛸が岩にしがみつき、足が太く短く、歯ごたえが強くなるという。主な材料は米、蛸、人参、ごぼう、油揚げで、だしと醤油、酒で炊き込む。
材料米・蛸(瀬戸内の地物)・人参・油揚げ・醤油・青ねぎ
- 人参を細い棒状に切る
- ゆでた蛸の足をひと口大に切る
- 鍋に米と蛸、人参、油揚げを入れ、醤油で味をつけて炊く
- 炊き上がったらさっくり混ぜ、茶碗によそって刻んだ青ねぎを散らす
出典: maff.go.jp
03土地のこと

猫の細道
天寧寺三重塔のそばから続く、総延長約200メートルの細い路地。1998年から、招福絵師の園山春二さんが考案した「福石猫」(丸い石に猫を描いた祈願石)が置かれるようになり、この名で呼ばれるようになった。空き家を再生した隠れ家のような店や美術館が点在する。千光寺山ロープウェイの山麓駅から徒歩3分ほど。

天寧寺 海雲塔(三重塔)
貞治6年(1367年)に足利義詮が建立したと伝わる曹洞宗の寺。塔は嘉慶2年(1388年)に建てられ、もとは五重塔だったが、元禄5年(1692年)に傷みのため上の二層が取り除かれて三重塔になった。1949年に国の重要文化財に指定。塔越しに尾道水道を望む眺めは、尾道を代表する風景のひとつ。


尾道水道と、坂と文学と映画の街
尾道水道は、尾道の本土と向島の間を流れる狭い海峡で、中世以来、瀬戸内海有数の港町として尾道を栄えさせた。尾道三山と水道に挟まれた限られた土地に寺社や家々が密集し、坂道と路地が結ぶ「箱庭的都市」の景観が生まれた。このストーリー「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」は、2015年に日本遺産に認定されている。林芙美子や志賀直哉が暮らした文学の街であり、小津安二郎『東京物語』や大林宣彦の尾道三部作の舞台となった映画の街でもある。

坂の途中の古民家宿
今回お借りしたのは、二階に手すりの付いた木造の古い家。楕円の窓のある玄関と、庭に面したガラス戸の広間がある。
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