
この旅のこと
尾道の古民家宿で暮らすように過ごす旅、その後編。瀬戸内のいりこ出汁に背脂の浮かぶ尾道ラーメンを食べ、線路沿いの商店街を歩いて、市民の手で蘇った映画館を訪ねた。瀬戸田のグリーンレモンで炭酸水を作り、老舗の蒲鉾店のお好み焼き天をつまんだら、夜は砂肝とイカ天の「尾道焼き」をフライパンで。レトロでモダンな、尾道の味の一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
瀬戸内の出汁と背脂、尾道ラーメン
尾道の昼は、ラーメンから始めた。瀬戸内産のいりこで取った出汁に醤油を合わせ、ミンチ状の背脂を浮かべた「尾道ラーメン」。平打ちの麺を持ち上げると、澄んだスープに脂の粒がきらめく。チャーシューとメンマ、刻んだ青ねぎがのっている。
あっさりとこってりが、ひとつの丼に共存している。贅沢な美味しさだ。カウンターの向こうでは、湯切りの籠が並んで湯気を上げていた。脇には、瀬戸内のしらすに卵黄をのせた「じゃこごはん」。旨味の詰まった「おや鶏しおポン酢」も頼んだ。
壁には、尾道を舞台にしたゲームのポスターが貼ってあった。主役も脇役も、皆さん名演技。ラーメンにも、ごはんにも、鶏にも、そう言いたくなる。
この場面から映像で見る0:1202TRAVEL JOURNAL
線路沿いの商店街
店を出ると、すぐそばを線路が走っていた。黄色い電車が、目の前を横切っていく。アーケードの入口には「センター街」の看板。尾道の本通りは、海と山のあいだを東西に延びる、およそ1.6キロの商店街だ。
ガラス屋根の下を歩く。路地の奥を貨物列車が抜け、「大和湯」の文字を掲げた元銭湯の建物の前を通る。明治の末ごろに開業したと伝わる建物だ。「駅前商店街」のひさしをくぐると、斜面にびっしりと家の並ぶ山が見えた。
数々の映画や、アニメの舞台になってきた町。歩いているだけで、どこかで見た景色に出会う。
この場面から映像で見る0:5203TRAVEL JOURNAL
映画の街の、唯一の映画館
商店街の一角に、小さな映画館がある。ここは、かつて一度閉館したことのある映画館。2001年に市内最後の映画館が閉まり、「映画の街」から映画館が消えた。
当時20代だったという現支配人が、映画好きの仲間とNPO法人を立ち上げ、市民に寄付を呼びかけて、2008年に旧映画館の建物を改装して開館した。いまも、尾道で唯一の映画館として営業している。
ガラス扉に映る街並みの向こうに、丸い看板。「次週上映」の文字と、壁一面のポスター。ガラス越しに、ポップコーンの袋がこちらを向いていた。まるで物語のようなエピソードに、心がときめく。
映画館を出て坂道の路地を上がり、流れる雲を見上げた。
この場面から映像で見る1:1104TRAVEL JOURNAL
夕暮れの路地と、老舗の看板
日が傾くころ、路地を歩いた。酒屋のガラス戸には「配達中」の札。アーケードの角には、大正二年創業という蒲鉾店の「桂馬」の看板が灯っている。
石畳の小路を抜けて、宿へ戻った。
この場面から映像で見る1:3905TRAVEL JOURNAL
瀬戸田のグリーンレモンで
地産の「瀬戸田レモン」を買ってきた。尾道市の瀬戸田町、生口島は国産レモンの一大産地で、広島県の生産量は全国の半分を超える。手にしたのは、まだ皮の緑なレモン。秋からは、色鮮やかなグリーンレモンが出回るそうだ。
半分に切って、氷を入れたグラスに炭酸水を注ぎ、くし切りのレモンを搾る。泡の中でレモンが揺れる。窓辺に腰を下ろし、庭を眺めながらひと口。爽やかな酸味が、坂道を歩いた身体に心地よい。
この場面から映像で見る1:5006TRAVEL JOURNAL
蒲鉾店のお好み焼き天
もうひと皿は、商店街の蒲鉾店で買ってきた天ぷら。瀬戸内の新鮮な生魚で作られたすり身に、キャベツと麺が入った「お好み焼き天」。半熟の黄身がとろける「煮たまご天」も添えた。
レモンを搾って、ひと口。地産の食材と、地元グルメのコラボに舌鼓。庭のテーブルと椅子が、夕方の光に照らされていた。
この場面から映像で見る2:2007TRAVEL JOURNAL
夕方の踏切と、海の見える町
夕方、もう一度外へ出た。線路沿いの道を歩くと、「千光寺前踏切」の標識の先に町が広がる。高台から見下ろすと、家々の屋根の向こうに海が光り、黄色い電車が町を縫って走っていった。
踏切の信号が赤く灯り、電車が通り過ぎる。宿に戻るころには、軒先の灯りがともっていた。
この場面から映像で見る2:3208TRAVEL JOURNAL
尾道のお好み焼き、下ごしらえ
夜は、お好み焼きを作る。尾道のお好み焼きは、具材に「砂肝」と「イカ天」が入ると聞いた。どんな味なのか気になる。
キャベツを半分に切り、薄く刻んでいく。フライパンで砂肝を炒め、ボウルで生地を溶いた。台所の明かりの下で、支度が整っていく。
この場面から映像で見る2:5309TRAVEL JOURNAL
鉄板はないけれど、フライパンで
お店と違って鉄板はないけど、どうしても作ってみたくて、フライパンで挑む。薄く流した生地の上に、刻んだキャベツと焼きそばの麺を山盛りにのせ、炒めた砂肝を散らす。
一度お皿に移し、フライパンの上でひっくり返す。焼き目のついた生地が上になった。ヘラで押さえると、縁から麺とキャベツがはみ出す。…うまく行きそうな気がする。
空いたフライパンに卵を割りほぐし、その上に本体を移してもう一度焼く。
この場面から映像で見る3:1710TRAVEL JOURNAL
尾道焼き、一丁あがり
お好み焼きソースをたっぷりかけ、青のりを振ったら、「尾道焼き」一丁あがり。フライパンごとテーブルに運んだ。グラスには、レモンの炭酸水。
この場面から映像で見る3:5011TRAVEL JOURNAL
レトロでモダンな味
箸で持ち上げると、麺とキャベツの層が現れた。美しい断面である。皿に取り分けて、ひと口。イカ天の旨味と、砂肝の歯ごたえが良い仕事をしている。
レトロだけど、モダンで、色々詰まった楽しい味。まるで尾道の町みたいだな。
この場面から映像で見る4:1012TRAVEL JOURNAL
夜の灯り
赤いガラスのランプの下で、夜が更けていく。棚には、マグカップと猫の形の焼き菓子。台所を片づけて、灯りの残る家で一日を終えた。
次はどんな暮らしに出会えるかな。
この場面から映像で見る4:41THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの尾道メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

尾道ラーメン 丸ぼし
広島県尾道市土堂2-8-16
尾道駅から海沿いを東へ歩いた、土堂の尾道ラーメン専門店。瀬戸内のいりこが効いた醤油スープに背脂のミンチが浮かび、平打ちの麺がよく合う。しらすと卵黄の「じゃこごはん」、「おや鶏しおポン酢」も一緒に。掲載ページでは、スープは小鯛をベースに国産の小魚で取った出汁に醤油を合わせたものとしている。
出典: tabelog.com

桂馬蒲鉾商店
広島県尾道市土堂1-9-3
尾道本通り商店街にある、大正2年(1913年)創業の蒲鉾店。瀬戸内で獲れたハモ・グチ・イカなどのすり身で蒲鉾を作る。概要欄によれば、保存料・化学調味料は使っていない。今回は、キャベツと麺の入った「お好み焼き天」と「煮たまご天」を買って、宿で食べた。
02作った料理

尾道焼き
尾道のお好み焼きは「尾道焼」と呼ばれ、鶏の砂ずり(砂肝)と、全国シェアの半分以上を占めるという尾道のいか天が入り、コリコリした食感が楽しめる。広島のお好み焼きは、戦前の「一銭洋食」が戦後に形を変えたもので、薄い生地にキャベツ・豚肉・焼きそばを重ねて蒸し焼きにし、甘口のソースと青のりで仕上げる。砂肝とイカ天を入れるのが尾道流で、ひき肉の府中焼き、細うどんの呉焼きなど、県内には市町ごとの焼き方がある。今回は鉄板の代わりにフライパンで焼いた。
材料小麦粉の生地・キャベツ・焼きそばの麺・砂肝・イカ天・卵・お好み焼きソース・青のり
- キャベツを薄く刻み、砂肝をフライパンで炒めておく
- フライパンに生地を薄く流して広げる
- キャベツと麺を山盛りにのせ、炒めた砂肝を散らす
- 一度皿に移し、フライパンにひっくり返して、ヘラで押さえる
- 空いたフライパンに卵を割りほぐし、その上に本体を移して焼く
- お好み焼きソースと青のりをかける
出典: ononavi.jp maff.go.jp
03土地のこと

シネマ尾道
広島県尾道市東御所町6-2
小津安二郎の『東京物語』や大林宣彦の「尾道三部作」で知られる「映画の街」尾道で、唯一の映画館。2001年に市内最後の映画館が閉館したあと、映画好きの仲間がNPO法人を立ち上げ、市民の寄付(2,700万円)で旧「尾道松竹」の建物を改装し、2008年10月に開館した。1スクリーン112席。
出典: pref.hiroshima.lg.jp en.jff.jpf.go.jp movie.jorudan.co.jp ja.wikipedia.org

元銭湯「大和湯」の建物
広島県尾道市土堂1-3-20
尾道本通り商店街にある、コンクリート造りにアーチ形の入口を持つ元銭湯。明治の末ごろに開業したと伝わり、長く営業したあと、建物は土産物店とカフェ「ゆーゆー」に使われていた(現在は閉鎖)。掲載ページによれば、その後は銭湯の名を残した小籠包の店が入っている。今回は外観を眺めただけ。
出典: 4travel.jp hamoni.jp

尾道本通り商店街
海と山のあいだを東西に約1.6キロ続くアーケード商店街。一番街・中商店街・本町センター街・中央街・尾道通りの5つの商店街からなり、約400の店が並ぶ。映像の「センター街」「駅前商店街」の看板は、この通りの一部。
出典: gltjp.com

瀬戸田レモン
広島県は国産レモンの生産量日本一で、2020年の生産量は4,861トン、全国の56%を占めた。尾道市瀬戸田町(生口島・高根島)は温暖で、水はけのよい花こう岩の土壌に恵まれ、1927年から産地づくりが進められた。露地のレモンは10月ごろから収穫が始まり、黄色くなる前に摘む「グリーンレモン」は香りが爽やかで酸味が強い。12月から4月ごろは黄色いレモンが出回る。

尾道ラーメン
醤油ベースのスープに、いりこなど瀬戸内の小魚の出汁を合わせ、豚の背脂を浮かべるのが特徴。コシのある平打ち麺が主流で、スープによく絡む。1990年代にメディアで取り上げられ、尾道の名物として広く知られるようになった。
尾道が舞台のゲーム「龍が如く6」
ラーメン店の壁に貼ってあったポスターは、2016年12月発売の「龍が如く6 命の詩。」。東京・神室町と並んで、尾道をモデルにした広島・尾道仁涯町が舞台になっている。
出典: playstation.com

尾道の古民家宿
今回お借りしたのは、庭にテーブルと椅子のある古民家の宿。窓辺から庭と白壁の建物が見え、台所には IH の調理台と吊り下げのランプがある。
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