写真とことばで、旅をする。

旅のエッセイ

和歌山県 有田川町

「和歌山の秋、食欲の秋」前編

寿司と秋桜と 中華そば

和歌山の秋を、食べて歩いた一日。

映像公開 66 枚の写真

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コスモス畑の中に立つ後ろ姿と、遠くの海
コスモス畑の中に立つ後ろ姿と、遠くの海ARIDAGAWA, WAKAYAMA

この旅のこと

明治のはじめに建てられた茅葺きの古民家で、秋の朝を迎えた。高菜でくるんだめはり寿司を握り、あらぎ島の棚田を見下ろして朝ごはん。みかん山を越えて天空のコスモス畑へ。帰りに寄った中華そばの店では、卓上で早ずしが待っていた。和歌山の秋を、食べて歩いた一日。

土地と食のことを、もう少し

01TRAVEL JOURNAL

茅葺きの家で迎える朝

和歌山県の紀中、有田川町の山あいにある古民家で朝を迎えた。明治のはじめに建てられたという茅葺きの家で、背には竹やぶが青々と茂っている。

庭の水面には、まだ夜の名残りの青が揺れていた。窓の下には使い込まれた木の流しがあり、開け放した戸の向こうに、目を覚ましたばかりの集落が見えた。

この場面から映像で見る0:21
竹やぶを背にした茅葺き屋根の古民家
01竹やぶを背にした茅葺き屋根の古民家
朝の薄暗がりの中で揺れる水面
02朝の薄暗がりの中で揺れる水面
窓の下に置かれた古い木の流し
03窓の下に置かれた古い木の流し
開け放した戸の向こうに集落が見える畳の間
04開け放した戸の向こうに集落が見える畳の間

02TRAVEL JOURNAL

和歌山の名産で、朝ごはんを

土間には、タイル張りの古いかまどが残っていた。今朝は和歌山の名産品を使って朝ごはんを作る。めはり寿司用の高菜漬けに、紀州の梅干し、赤しそ。それから、隣の湯浅町でつくられた醤油。

湯浅は、日本の醤油の発祥の地とされる町だ。刻んだ高菜漬に、その醤油をなじませる。ふと見上げると、茅葺きの軒の裏で、竹の骨組みが厚い屋根を支えていた。

梅干しの産地といえば、やはり紀州。果肉を種から外して、細かく刻む。台所の窓からは、やわらかな朝の光が差し込んでいた。醤油に、梅干しに、高菜。ここは日本の伝統食に、なじみの深い土地だ。

この場面から映像で見る0:34
タイル張りの古いかまど
05タイル張りの古いかまど
「めはり」の高菜漬けと、紀州の梅干しや赤しその包み
06「めはり」の高菜漬けと、紀州の梅干しや赤しその包み
まな板の上で高菜漬を刻む包丁
07まな板の上で高菜漬を刻む包丁
湯浅でつくられた醤油の瓶
08湯浅でつくられた醤油の瓶
醤油をなじませた高菜漬
09醤油をなじませた高菜漬
茅葺き屋根の軒裏と竹の骨組み
10茅葺き屋根の軒裏と竹の骨組み
まな板の上で梅干しを切る
11まな板の上で梅干しを切る
細かく刻んだ梅干し
12細かく刻んだ梅干し
古民家の台所で支度をする後ろ姿
13古民家の台所で支度をする後ろ姿
軒先から見上げた空と山の松
14軒先から見上げた空と山の松

03TRAVEL JOURNAL

高菜でくるむ、めはり寿司

ご飯の中に刻んだ高菜漬を入れて、ぎゅっと握る。それを、広げた高菜の葉で包む。和歌山の郷土料理、めはり寿司だ。

名前の由来には、いくつかの説があるそうだ。目を見張るように大きく口を開けて食べるから。目張りをするように、すき間なく包み込むから。葉の端を折り込みながら、どちらの説にもうなずいてしまう。

もとは、漁や山仕事の合間に手早く食べられる弁当として広まったという。梅干しと赤しそを混ぜたご飯も握って、黒い皿に並べた。

この場面から映像で見る1:08
刻んだ高菜を入れたご飯を手のひらで握る
15刻んだ高菜を入れたご飯を手のひらで握る
まな板の上でおにぎりの形を整える手元
16まな板の上でおにぎりの形を整える手元
高菜の葉にのせた握りたてのご飯
17高菜の葉にのせた握りたてのご飯
広げた高菜の葉でおにぎりを包む
18広げた高菜の葉でおにぎりを包む
葉の端を折り込んで包む手元
19葉の端を折り込んで包む手元
すっかり包み終えためはり寿司
20すっかり包み終えためはり寿司
黒い皿にのせた梅しそのおにぎりとめはり寿司
21黒い皿にのせた梅しそのおにぎりとめはり寿司

04TRAVEL JOURNAL

あらぎ島を見下ろして

握ったおにぎりを竹の皮に包んで、家を出た。茅葺きの母屋と蔵が、朝の日差しの中に並んでいる。

向かったのは、国の重要文化的景観に選ばれた「あらぎ島」。有田川が大きく弧を描き、その内側に扇の形をした棚田が広がっている。展望所の案内板によると、江戸時代のはじめ、明暦元年(1655年)に水路が引かれて、ここで米がつくれるようになったという。

ベンチに腰かけて、膝の上で竹の皮を開く。めはり寿司と梅のおにぎりをほおばりながら、棚田と集落を眺めた。人の営みと自然が、長い時間をかけてつくりあげた景色だ。ごきげんな朝食だった。

この場面から映像で見る1:34
茅葺きの母屋と蔵が並ぶ古民家の外観
22茅葺きの母屋と蔵が並ぶ古民家の外観
提灯の灯る板の間に立つ後ろ姿
23提灯の灯る板の間に立つ後ろ姿
有田川に囲まれた扇形の棚田、あらぎ島
24有田川に囲まれた扇形の棚田、あらぎ島
展望所の柵の向こうに広がる山並み
25展望所の柵の向こうに広がる山並み
あらぎ島の四季の写真を載せた案内板
26あらぎ島の四季の写真を載せた案内板
膝の上で竹の皮の包みを開く手元
27膝の上で竹の皮の包みを開く手元
竹の皮にのった梅しそのおにぎりとめはり寿司
28竹の皮にのった梅しそのおにぎりとめはり寿司
展望所のベンチに座り、あらぎ島を眺める後ろ姿
29展望所のベンチに座り、あらぎ島を眺める後ろ姿
木の葉の間からのぞく棚田と有田川
30木の葉の間からのぞく棚田と有田川
集落とあらぎ島を見下ろす展望所
31集落とあらぎ島を見下ろす展望所

05TRAVEL JOURNAL

ただいま

古民家に戻って、ただいま。障子越しの光が、畳の間を静かに満たしている。

物置には、古い木桶や臼がそのまま置かれていた。この家で重ねられてきた暮らしの道具たちだ。

この場面から映像で見る2:38
古民家の玄関の戸を開ける後ろ姿
32古民家の玄関の戸を開ける後ろ姿
障子越しの光が入る畳の間
33障子越しの光が入る畳の間
古い木桶や臼が置かれた物置
34古い木桶や臼が置かれた物置

06TRAVEL JOURNAL

みかん山を越えて

午後は、山の上を目指した。道の途中、石垣を積んだ段々のみかん畑と、家々が並ぶ斜面が現れた。

温暖な気候と山の斜面が、みかんづくりに向いているのだそうだ。枝の実は色づき始めたところで、畑の間には収穫を運ぶモノレールが延びている。和歌山らしい風土を感じる集落を越えて、さらに上へ。

この場面から映像で見る3:01
石垣の段々畑と集落を見下ろす後ろ姿
35石垣の段々畑と集落を見下ろす後ろ姿
斜面に家々が並ぶみかんの里
36斜面に家々が並ぶみかんの里
みかん畑の間を縫う山道
37みかん畑の間を縫う山道
枝に実る色づき始めたみかん
38枝に実る色づき始めたみかん
みかん畑の運搬用モノレール
39みかん畑の運搬用モノレール
集落の中を通る分かれ道
40集落の中を通る分かれ道

07TRAVEL JOURNAL

天空の秋桜

標高586メートル、鷲ヶ峰の頂に広がるコスモスパーク。およそ100万本のコスモスが咲き誇っている。

晴れた日には、遠く淡路島や四国まで見渡せるという。花の向こうに町と海がかすんで、まるで天空の花畑にいるようだった。

コスモスは、和名で秋桜(あきざくら)とも書く。空の近くで、秋の訪れを告げる花だ。心地よい風を受けて、可憐に揺れていた。ベンチに腰を下ろして、しばらく風に吹かれた。

この場面から映像で見る3:21
遠くの町を見下ろすコスモス畑
41遠くの町を見下ろすコスモス畑
青空の下で咲くコスモスの寄り
42青空の下で咲くコスモスの寄り
コスモス畑の中に立つ後ろ姿と、遠くの海
43コスモス畑の中に立つ後ろ姿と、遠くの海
ぼけたコスモス越しに見える町と海
44ぼけたコスモス越しに見える町と海
空に向かって咲くコスモスの丘
45空に向かって咲くコスモスの丘
町を背に咲くピンクのコスモス
46町を背に咲くピンクのコスモス
一面に広がるコスモス畑
47一面に広がるコスモス畑
ベンチに座って景色を眺める後ろ姿
48ベンチに座って景色を眺める後ろ姿

08TRAVEL JOURNAL

卓上の早ずしと、和歌山ラーメン

山を下りて、中華そばの店に入った。厨房の脇には製麺所の箱が積まれ、テーブルの籠には、葉で包んだ「早ずし」が置いてある。

早ずしは自由に取って、好きなタイミングで食べる(お代は、あとでまとめて払う)。それが、ここ和歌山のラーメン店のスタイルだ。「和歌山のラーメン店の卓上には、寿司が置いてある」。そう聞いてから、押し寿司好きの私はずっと心がときめいていた。

葉をほどくと、酢でしめたサバの押しずしが現れる。品書きの並ぶ壁に、窓辺の赤い丸椅子。運ばれてきたのは、醤油豚骨のスープにかまぼこがのった和歌山ラーメン。すっきりしていて濃厚なスープに、まっすぐな中細麺がよく合う。

コクの深いラーメンを、さっぱりした早ずしが引き立てる。この名脇役が卓上にいる理由に、ひと口で納得した。

この場面から映像で見る4:01
製麺所の箱と重ねた丼が並ぶ厨房の脇
49製麺所の箱と重ねた丼が並ぶ厨房の脇
テーブルの籠に置かれた早ずしに手を伸ばす
50テーブルの籠に置かれた早ずしに手を伸ばす
「早寿司」と書かれた緑の包み
51「早寿司」と書かれた緑の包み
包みの裏のラベル
52包みの裏のラベル
葉をほどいて早ずしを取り出す
53葉をほどいて早ずしを取り出す
包んでいた葉をはがす手元
54包んでいた葉をはがす手元
品書きが並ぶラーメン店の壁
55品書きが並ぶラーメン店の壁
青い縞の窓辺に置かれた赤い丸椅子
56青い縞の窓辺に置かれた赤い丸椅子
かまぼこと青ねぎがのった和歌山ラーメン
57かまぼこと青ねぎがのった和歌山ラーメン
ラーメンの写真と「徳」の字が描かれた看板
58ラーメンの写真と「徳」の字が描かれた看板
ラーメンを前に早ずしの葉をほどく
59ラーメンを前に早ずしの葉をほどく

09TRAVEL JOURNAL

有田みかんと、もうひとつの秋

夕食は「秋の和歌山御膳」としゃれこもう。帰り道、「みかん」の看板が出た直売所に寄った。

和歌山の名産品といえば、みかん。店先には「有田の旬」の箱と、袋詰めの有田みかんが並んでいる。青みがかった極早生のみかんも、初秋には欠かせない。

さらにもうひとつ、秋の味覚を収穫しに行こうかな。

この場面から映像で見る5:09
「みかん」の看板が出た直売所
60「みかん」の看板が出た直売所
箱と袋詰めのみかんが並ぶ店先
61箱と袋詰めのみかんが並ぶ店先
直売所の前に並ぶ有田みかんの袋
62直売所の前に並ぶ有田みかんの袋
青みがかった極早生みかんの袋
63青みがかった極早生みかんの袋
「有田の旬」の箱が積まれた店内
64「有田の旬」の箱が積まれた店内
農園の値札と袋詰めの有田みかん
65農園の値札と袋詰めの有田みかん

10TRAVEL JOURNAL

後編へ

窓辺でグラスを傾けながら、一日を振り返る。後編は、栗と秋刀魚と、秋の御膳へ。

この場面から映像で見る5:50
窓辺でグラスを手にくつろぐ
66窓辺でグラスを手にくつろぐ

THE JOURNEY IN FILM

風の音も、台所の音も。

写真の向こうに流れていた時間を、映像でも。

映像で見る6分

THE BORROWER’S NOTES

借り暮らしの和歌山・有田川メモ。

立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。

01立ち寄った店

  • 中華そば まる徳

    中華そば まる徳

    和歌山県有田郡有田川町徳田430-4

    昔ながらの醤油ベースの中華そばを出す店。テーブルには早寿司(あせ寿司)が置かれ、自分で取って食べる。ラーメンには、かまぼこと青ねぎ。厨房の脇には製麺所の箱が積まれていた。営業時間は掲載先によって違うので、行く前に確かめてほしい。

    出典: guruwaka.com tabelog.com

  • みかんの直売所(マルシ農園)

    みかんの直売所(マルシ農園)

    道沿いの直売所で、袋詰めの有田みかんが並ぶ。初秋に出回る極早生の「ゆら早生」もあった。

02作った料理

  • めはり寿司

    めはり寿司

    塩漬けの高菜で大きなおにぎりを包む、和歌山の郷土料理。漁業や林業が盛んな県南部で、漁や山仕事の合間に手早く食べられる弁当として広まった。高菜は日当たりの悪い場所でも育つため、平地の少ない県南部の山間部で盛んにつくられてきた。冬から春先に収穫して塩漬けにする。名前は「目を張るように口を開けて食べる」「目を見張るほどおいしい」「すき間なく包む」など、諸説ある。今回は、隣町の湯浅でつくられた醤油で高菜をなじませた。

    材料ご飯・高菜漬け(葉と茎)・醤油(湯浅)

    1. 高菜漬の茎を刻み、醤油をなじませる
    2. ご飯に刻んだ高菜を入れて握る
    3. 広げた高菜の葉で、すき間なく包む

    出典: maff.go.jp

  • 梅しそのおにぎり

    梅しそのおにぎり

    和歌山は梅の収穫量が全国1位の県で、2024年産は全国の58%(前年は64%)を占めた。紀州の梅干しを刻んで、赤しそと一緒にご飯に混ぜた。

    材料ご飯・紀州の梅干し・赤しそ

    1. 梅干しの果肉を種から外して刻む
    2. ご飯に梅干しと赤しそを混ぜて握る

    出典: maff.go.jp

03土地のこと

  • あらぎ島(蘭島)

    あらぎ島(蘭島)

    有田川が弧を描いて囲む、扇形の棚田。明暦元年(1655年)、山保田組の大庄屋、笠松左太夫(佐太夫とも書く)が湯川川に井堰を設けて用水路「上湯(うわゆ)」を開き、蘭島で米がつくれるようになった(観光案内の一部には1661年とするものもある)。2013年10月17日、「蘭島及び三田・清水の農山村景観」として国の重要文化的景観に選ばれた。日本の棚田百選のひとつ。

    出典: online.bunka.go.jp mlit.go.jp youtube.com

  • 鷲ヶ峰コスモスパーク

    鷲ヶ峰コスモスパーク

    和歌山県有田郡有田川町長谷244-2

    標高約586メートルの鷲ヶ峰の頂一帯に、およそ100万本のコスモスが咲く。見頃は例年9月下旬から10月中旬(年によって前後する)。晴れた日には有田の町や湯浅湾、淡路島や四国まで見渡せる。

    出典: tabi-mag.jp

  • 有田みかんと石積み階段園

    有田みかんと石積み階段園

    和歌山県は温州みかんの生産量が日本一。有田では400年以上前から、農家が石を積んで階段状のみかん畑を築いてきた。2025年8月26日、「有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム」が世界農業遺産に認定された。

    出典: pref.wakayama.lg.jp

  • 極早生みかん「ゆら早生」

    極早生みかん「ゆら早生」

    1985年、和歌山県由良町で「宮川早生」の枝変わりとして見つかり、1995年に品種登録された。皮にまだ緑が残るころから出回り、極早生の中でも糖度が高い。

    出典: maff.go.jp

  • 湯浅の醤油

    湯浅の醤油

    有田川町の隣、湯浅町は醤油醸造の発祥の地とされる。中国で学んだ禅僧が伝えた径山寺(金山寺)味噌の桶にたまった汁が、醤油の始まりと伝わる。2017年、「「最初の一滴」醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅」として日本遺産に認定された。町には1841年創業の醸造元「角長」などが今も残る。

    出典: walkerplus.com kyodonewsprwire.jp

  • 和歌山ラーメンと早すし

    和歌山ラーメンと早すし

    和歌山ラーメンは地元では「中華そば」と呼ばれ、昭和初期の屋台に始まるとされる。豚骨醤油のスープが基本で、すっきりした「車庫前系」と、まろやかで濃厚な「井出系」がある。店の卓上には早すし(酢でしめたサバの押しずし)やゆで卵が置かれ、好きなときに取って食べる。有田川町の清水地域には、魚をのせた酢飯をアセの葉で包む伝統の「はやずし」があり、葉で包むと持ち運びやすく、傷みにくい。

    出典: wakayama-kanko.or.jp mlit.go.jp

  • 明治初期の古民家宿

    明治初期の古民家宿

    今回お借りしたのは、明治のはじめに建てられた茅葺きの古民家宿。タイル張りのかまどや、古い木桶の残る物置がある。

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01茅葺きの家で迎える朝

02和歌山の名産で、朝ごはんを

03高菜でくるむ、めはり寿司

04あらぎ島を見下ろして

05ただいま

06みかん山を越えて

07天空の秋桜

08卓上の早ずしと、和歌山ラーメン

09有田みかんと、もうひとつの秋

10後編へ