
この旅のこと
朝から雨の降る夏の日を、丹波の山里に建つ築100年ほどの古民家で過ごした。紫キャベツとレモンで色をつけた寒天で、紫陽花の和菓子「錦玉紫陽花」を作る。寒天が固まるのを待つあいだは、傘をさして紫陽花の参道を歩き、蕎麦屋で雨宿り。夜は囲炉裏を囲んで、丹波名物のぼたん鍋をいただいた。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
朝から雨の、夏の一日
朝から雨がふる、夏のとある日。兵庫県丹波市の山里で、築100年ほどの古民家をお借りした。低い雲が山にかかり、田んぼの水面に雨が落ちている。
障子を開けると、庭と山の緑が広がる。家のまわりには紫陽花が咲いていて、雨に濡れた花が青や桃色に光っていた。この紫陽花の咲く雨の日が、もっと楽しくなるような和菓子を作ろう。
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紫キャベツから、紫陽花の色を
まずは、あんこから。今回は白あんを使う。粉の白あんを鍋にあけ、水を加えて、へらで練り上げていく。
紫陽花の色は、紫キャベツから拝借する。包丁で細く刻んで熱湯に入れると、湯がみるみる紫色に染まっていった。きれいな紫色が出るのだ。棒寒天は、水で戻しておく。
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レモン汁で、紫からピンクへ
紫色の煮汁に、水で戻した寒天をちぎり入れ、煮溶かす。計量カップに移すと、深い紫色の液になった。
ここにレモンを絞る。化学反応を起こすと、あら不思議。鮮やかなピンク色に変化する。紫とピンクの2色で、紫陽花を表現するつもりだ。
バットに流し入れて、冷蔵庫へ。冷やせば、2色の寒天が出来上がる。
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寒天が固まるまで、雨の散歩
寒天が固まるまで、散歩に出よう。薄暗い格子戸の部屋を抜けて、縁側から外へ。棚の上には丸い石が並び、その向こうに田んぼが広がっていた。
傘をさして歩いていくと、紫陽花の咲く参道に出た。雨の滴る紫陽花がキレイだ。青い額紫陽花、紫の手まり咲き、桃色の花。苔むした石段を上ると、その両側にも花が続いていた。
低い雲が山にかかり、田んぼには雨が落ちる。遠くの道を、傘をさした人が歩いていく。雨の日の散歩も、情緒があって良いものだ。
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お蕎麦屋さんで、ちょっと雨宿り
お蕎麦屋さんで、ちょっと雨宿り。古民家を使った店で、縁側の席からは庭の紅葉と雨の田んぼが見える。まずは、よく冷えたノンアルコールのビールをグラスに注いだ。
運ばれてきたのは、細打ちの蕎麦に桃色の大根おろしとわさびをのせた一皿。大根おろしにすだちの果汁をかけると色が変わる、三色そばだ。お蕎麦屋さんは酒の肴も楽しみの一つで、だし巻き卵と、肉と白ねぎの入った温かい椀をいただいた。
窓の外には、ここにも綺麗な紫陽花が咲いていた。食べ終えるころには雲が切れて、田んぼの道に日が差した。シアワセな午後。
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ただいま
町の道を抜けて、田んぼの間を歩いて帰る。雨上がりの空は明るく、山の緑が濃い。
古民家に戻って、ただいま。玄関には赤い暖簾がかかり、軒下に竹の簾が垂れている。囲炉裏の間には、ギターとレコードの棚があった。
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錦玉紫陽花の仕上げ
寒天が綺麗に固まったので、仕上げに取り掛かろう。バットから出した青い寒天と桃色の寒天を、包丁で細い棒に切り、さらに小さな角切りにしていく。
その季節に咲く花を模したり、旬の物を材料にしたり。和菓子は四季を感じさせてくれる。手のなかで形作る物が多いのも特徴だ。
白あんを丸めて黒い皿に置き、手のひらにのせた角切りの寒天を、ひと粒ずつ指で貼り付けていく。花びらが集まって、小さな紫陽花になった。へいお待ち。
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雨上がりの午後
紫陽花を模した、可愛い和菓子。青いガラスの器に葉を添えて、縁側に運んだ。透明感のある「錦玉紫陽花」が、雨上がりの午後を彩る。
楊枝でひと粒。寒天の食感と、白あんの甘さ。縁側の先では、蚊取り線香の煙がゆるく立ち上る。囲炉裏の間から庭と田んぼを眺めて過ごした。家の脇の小川は、雨で水かさが増している。
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山里に夕暮れが訪れる
山里に夕暮れが訪れる。山の端に残った雲が、うっすらと色づいていく。庭の紫陽花は青く沈み、蚊取り線香の缶の中で赤い火がともる。
田んぼの向こうの古民家に、明かりがついた。
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囲炉裏で、丹波名物のぼたん鍋
夜は囲炉裏を囲む。囲炉裏は何度体験してもワクワクする。炭火の上に、木の蓋をした鉄鍋がかかっている。
この古民家では、夕食のオプションとして、丹波名物「ぼたん鍋」を用意して頂けるのだ。卓には、水菜・にんじん・白菜・豆腐・しめじ・白ねぎを盛った大皿と、うどんと餅。そして、薄切りのイノシシ肉を牡丹の花のように盛り付けた皿が運ばれてきた。日本の田舎ならではの、イノシシ肉のお鍋。
肉を鍋に入れると、湯気が立ち上る。囲炉裏の縁には、串に刺した鮎と椎茸、ししとうが並んで、じっくり焼かれていた。
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夏の囲炉裏も、悪くない
夏の囲炉裏も、悪くないな。扇風機を回しながら、缶からグラスにノンアルコールのビールを注ぐ。火のそばで飲むビールは、格別に美味しい。
宿主の手料理も絶品だ。囲炉裏で焼いた鮎に椎茸、そして丹波の黒豆の枝豆も嬉しい。
木の蓋を取ると、ぼたん鍋が煮えていた。味噌の色のつゆに、肉と野菜、椎茸、豆腐、にんじん。猪肉はこってりしているのにくどくなく、甘い味噌の味付けとよく合う。夏の夜に汗をかきながら、美味しい鍋料理を堪能する。
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虫の音と、冷酒と、蚊取り線香
食後は、棚からレコードを一枚選んで、針を落とす。好きな音楽と、虫の音を楽しみながら、キリッと冷やしたノンアルコールの冷酒をグラスに注ぐ。卓の上では、蚊遣り豚から細い煙が上がっている。
「整った」とは、このことかもしれない。
本当は三部作にしたかった、夏休みシリーズ。2023年の夏は台風の停滞が予定と重なったりで、この続きはまた来年になりそうだ。来年の夏休みが、今から楽しみです。
この場面から映像で見る6:44THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの丹波メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

そばんち
兵庫県丹波市市島町梶原125
古民家を使った蕎麦屋。縁側の席から、庭の紅葉と田んぼ、紫陽花が見える。細打ちの蕎麦に桃色の大根おろしとわさびをのせた三色そば(大根おろしにすだちの果汁をかけると色が変わる)、だし巻き卵、肉と白ねぎの入った温かい椀をいただいた。瓶のノンアルコールビールもある。定休日は掲載先によって違うので、行く前に確かめてほしい。
02作った料理

錦玉紫陽花
錦玉(錦玉羹)は、煮溶かした寒天に砂糖や水あめなどを加えて固めた和菓子で、透明感を生かして水や空を表し、夏に多く作られる。今回は紫キャベツの煮汁で寒天に色をつけ、レモン汁を加えた分はピンク色に変わった。2色の寒天を白あんの玉にまとわせて、梅雨の花を形にした。
材料白あん(粉の白あんを水で練ったもの)・紫キャベツ・棒寒天・レモン汁・水
- 粉の白あんに水を加え、鍋で練って白あんを作る
- 紫キャベツを刻んで熱湯に入れ、紫色の煮汁をとる
- 水で戻した寒天をちぎり入れ、煮溶かす
- 一部にレモン汁を加えて、ピンク色に変える
- バットに流し、冷蔵庫で冷やし固める
- 固まった寒天を小さな角切りにする
- 白あんを丸め、角切りの寒天をひと粒ずつ貼り付けて紫陽花の形にする
03土地のこと

丹波のぼたん鍋
薄切りのイノシシ肉を牡丹の花のように盛り付け、野菜と一緒に味噌仕立てで煮る鍋。発祥は丹波篠山で、明治時代からもてなし料理として食べられてきた。1891年(明治24年)に篠山の旅館の当主が考案した「イノ鍋」が始まりとされ、1931年(昭和6年)の民謡「篠山小唄」の歌詞で「ぼたん鍋」の名が広まったと伝わる。猪は木の実などを食べて育つため肉に臭みがなく、旬は12月から3月。令和3年度に、文化庁の「100年フード」(近代の100年フード部門)に認定された。今回は宿で用意してもらい、甘い味噌のつゆに猪肉と野菜、うどんと餅を入れていただいた。

丹波黒(黒大豆)
丹波地域で古くから栽培されてきた大粒の黒大豆。幕府や宮中への献上品となり、年貢を黒豆で納めた記録も残る。百粒の重さが、一般の大豆の約30グラムに対して80〜90グラムと大粒で、煮ても皮が破れにくく、よく膨らむ。莢の若い10月に収穫する枝豆も人気がある。兵庫県は日本一の産地で、令和4年度の作付面積は約1,400ヘクタール。今回は囲炉裏の肴に、黒豆の枝豆が出た。

丹波市
兵庫県東部の内陸、中山間地にある市。瀬戸内海と日本海のほぼ中間に位置し、2004年(平成16年)11月1日に氷上郡の柏原・氷上・青垣・春日・山南・市島の6町が合併して発足した。同じ兵庫県の丹波篠山市とは別の市。今回泊まった山里と、雨宿りした蕎麦屋は、この市の中にある。
出典: ja.wikipedia.org

築100年の古民家宿
今回お借りしたのは、山里の田んぼに面した築100年ほどの古民家。障子の間と囲炉裏の間があり、縁側から庭と田んぼを眺められる。囲炉裏の間にはギターとレコードの棚。夕食のオプションで、宿主がぼたん鍋を用意してくれる。
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