
この旅のこと
静岡県浜松市の最北部、長野県境に近い山あい。標高736メートル、「天空の里」と呼ばれる集落の古民家で、かまどと囲炉裏のある一日を過ごした。マッチで火をつけてご飯を炊き、「となりのトトロ」のお弁当を持って集落を歩く。夕暮れには手作りの露天風呂、夜は囲炉裏で猪鍋とヤマメ。山の上で、火と暮らした一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
見晴らしの良い古民家
静岡の山間部、見晴らしの良い古民家に泊まった。のれんの掛かった入口の前には縁台が置かれ、斜面には段々畑と家々が重なっている。
縁側には使い込まれた木の箱や農具が並び、格子窓のそばには足踏みミシン。棚の上の黒電話は、ダイヤルを回す型だ。ここでは、かまどや囲炉裏が今も現役で、昔ながらの生活を体験することができる。
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かまどに火を入れる
まずは、かまどでご飯を炊いてみる。釜に米を入れ、水を注いで研ぐ。白く濁った研ぎ汁を流して、何度か繰り返す。うまく炊けるかな。
水を張った羽釜に木の蓋をのせ、タイル張りのかまどに据える。焚き口に細い薪を組み、マッチを擦る。マッチの炎は柔らかくて好きだ。薪に火が移り、焚き口いっぱいに炎が立ちのぼった。屋根の煙突から、白い煙が集落の空へ流れていく。着火に成功しました。
火加減は薪の量で調節する。蓋のすき間から湯気が噴き出し、釜のまわりが白く曇る。普段は機械が行ってくれていることを自分で行うと、色々と感慨深い。炊けるのを待つ間、家の前の細い路地に出てみた。
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サツキのお弁当
映画「となりのトトロ」の時代設定は、1953年ごろだと聞いた。テレビのない時代。そんな時代のお弁当を作ってみよう。サツキが朝早く起きて、父とメイのために作っていたお弁当だ。
小魚をグリルで焼く。白いほぐし身にビーツの粉をふって、フライパンで炒ると、桃色のでんぶになった。障子の向こうでは、山並みが午後の光を受けている。
炊き上がったご飯をしゃもじでほぐし、朱塗りの弁当箱に詰める。桃色のでんぶ、緑のえんどう豆、そして梅干し。梅干しが大きかった。最後に焼いた小魚をのせる。キミもなかなか大きいな。
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出かける前に
出かける前に、家の中をひと回り。縁側の畳には、秋の日差しが斜めに差し込んでいる。囲炉裏の部屋では天井から自在鉤が下がり、開け放した窓の外に山が見えた。
この家には、ほかの住人もいる。赤い首輪をした柴犬と、柵の向こうから顔を出すヤギたち。さて、お弁当を持って出かけよう。
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天空の里でピクニック
「天空願いの鐘 300m」。家の脇の案内板が、坂の上を指している。トタン屋根の家々が斜面に重なり、その向こうに山並みが幾重にも続く。ここは標高736メートル、「天空の里」と呼ばれる大沢集落だ。
急な斜面に石垣を積み、小さな畑と家を張り付けたような集落は、「遠州のマチュピチュ」とも呼ばれている。石垣の道を登って、見晴らしのいい縁台に腰を下ろした。足元にはイチョウの葉が散っている。
膝の上で弁当箱を開ける。かまどで炊いたごはんは、ふっくらとして美味しい。集落の屋根と、谷を挟んだ山々を見下ろしながらのお昼ごはん。
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神社と天空願いの鐘
さらに上に登ってみよう。黄色いイチョウの落ち葉を踏んで、杉の木立の中の道をたどる。木々の間に石の鳥居が立ち、その奥に小さな社殿が見えた。集落で唯一の神社、正八幡神社だ。
お賽銭を入れて、願い事を書く紙をいただく。社殿の前の柵には、願い事を結んだ白い紙がずらりと並んでいた。願い事を書いた紙を括り付けて、鐘を鳴らします。
杉の幹の脇に、「天空願いの鐘」の札と鐘が下がっている。かーん。澄んだ音が谷へ渡っていった。眼下には、山並みがどこまでも続いている。
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お茶と、特製の干し柿
家に戻って、窓辺のテーブルでおやつにする。静岡のお茶と、特製の干し柿。湯呑みの横の皿に、飴色の干し柿がひとつ。とても綺麗な色だ。
指で割ると、中はとろりとした飴色。とろっとした食感と豊かな風味、優しい甘さ。干すことで保存が効き、こんなにも美味しくなる。果物と菓子の中間点、いわばお菓子の原型だろうか。
障子の向こうに、午後の山並み。窓辺の席で、しばらく景色を眺めていた。外では柴犬が、道の真ん中に座ってこちらを見ている。
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夕暮れの露天風呂
夕暮れ、絶景が眺められる露天風呂へ。湯船の縁に缶ビールを置くと、向かいの山の稜線が夕日で赤く染まり始めた。
譲ってもらったものや廃材を利用して、宿主自ら手作りされた自慢の露天風呂だ。梁の向こうに、茜色の雲が流れていく。そんな宿主のおすすめに習って、風呂ビール。いい湯だな。
日が落ちると、天井の竹かごの灯りがともった。窓の外は、もう真っ暗だ。
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囲炉裏で、猪鍋とヤマメ
夕食は囲炉裏で作ってみる。七輪に炭を入れて火を起こし、火起こしごと囲炉裏の部屋へ運ぶ。灰の上の炭が赤く熾きて、鉄の五徳が温まる。昔の人は家の火を絶やさず、大切に使っていたそうだ。
当たり前だけど、火が無いと生活は困難だ。そんなことを、囲炉裏の前で改めて思う。ヤマメの口から竹串を通し、塩をふって、灰に串を立てる。これ、やってみたかったやつです。
自在鉤に鉄鍋を吊るして、猪鍋を煮る。薄切りの猪肉に玉ねぎ、えのき、しらたき。ぐつぐつと煮えて、イノシシ鍋の出来上がり。ジョッキにビールを注いで、囲炉裏端の晩ごはんが始まった。
串に刺した魚に憧れるのは、私だけじゃないはず。炭火の遠赤外線効果で、皮はこんがり、身はふっくら美味しい。鍋をつつきながら、火を見つめる。囲炉裏っていいな。
この場面から映像で見る5:53THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの浜松・水窪メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01作った料理

かまどで炊いたご飯
この家では、タイル張りのかまどが今も現役で使われている。普段は炊飯器がしてくれることを、薪とマッチで自分で行う。火加減は薪の量で決まり、煙突から白い煙が集落の空に流れていく。かまどで炊いたご飯はふっくらとして、お弁当に詰めて山の上で食べた。
材料米・水・薪
- 釜に米と水を入れて研ぎ、研ぎ汁を流して何度か繰り返す
- 水を張った羽釜に木の蓋をのせ、かまどに据える
- 焚き口に細い薪を組み、マッチで火をつける
- 火加減は薪の量で調節し、蓋のすき間から湯気が噴いてくるまで炊く
- 炊き上がったら、しゃもじでほぐす

サツキのお弁当
映画「となりのトトロ」で、サツキが朝早く起きて作るお弁当を再現した。映画の中では、かまどで炊いたご飯に焼いためざし、えんどう豆、桜でんぶ、梅干しが入っている。舞台は昭和30年代初期、まだテレビが普及する前の時代とされる。今回はご飯をかまどで炊き、でんぶはビーツの粉で色を付けて作った。
材料かまどで炊いたご飯・小魚の干物・えんどう豆・梅干し・白いほぐし身・ビーツの粉
- 小魚をグリルで焼く
- 白いほぐし身にビーツの粉をふり、フライパンで炒って桃色のでんぶにする
- 炊き上がったご飯を弁当箱に詰める
- でんぶ、えんどう豆、梅干しをのせ、最後に焼いた小魚をのせる

囲炉裏の猪鍋
浜松市天竜区は区域の大半が森林で、野生鳥獣の肉を楽しむ「天竜ジビエフェス」が二俣町で開かれている(2025年5月で第5回)。集落のある水窪町も、町の96%が森林の山峡の町だ。囲炉裏の自在鉤に鉄鍋を吊るし、薄切りの猪肉を玉ねぎ、えのき、しらたきと煮た。
材料猪肉(薄切り)・玉ねぎ・えのき・しらたき・つゆ
- 囲炉裏の炭を熾し、自在鉤に鉄鍋を吊るす
- つゆに猪肉と野菜を入れて煮る
- 煮えたら囲炉裏端で取り分ける

ヤマメの串焼き
水窪川では、毎年夏にヤマメのつかみ取り大会が開かれている(2025年7月で第28回)。串に刺して囲炉裏の灰に立て、炭火の遠赤外線でじっくり焼くと、皮はこんがり、身はふっくらと仕上がる。
材料ヤマメ・塩
- 口から竹串を通し、塩をふる
- 囲炉裏の灰に串を立て、炭火の遠火でじっくり焼く
02土地のこと

天空の里 大沢集落
浜松市天竜区水窪町の山の上にある集落。水窪観光協会は「日本のマチュピチュ」と言われる天空の里として紹介している。集落の案内では標高736メートルで、「遠州のマチュピチュ」とも呼ばれる。水窪は浜松市の最北部、長野県との県境に位置し、三方を山に囲まれた谷あいの町。町の96%が森林で、水窪川沿いの中心部でも標高は250メートルある。

正八幡神社と天空願いの鐘
大沢集落で唯一の神社。杉の木立の中に石の鳥居と小さな社殿がある。お賽銭を入れて願い事を書く紙をいただき、社殿の前の柵に括り付けてから、「天空願いの鐘」を鳴らす。鐘のそばからは、谷を挟んだ山並みが見渡せる。

静岡のお茶
静岡県は茶の栽培面積が全国1位で、2025年は11,600ヘクタール、全国の34.7%を占める。荒茶の産出額も1位(2024年、99億円・31.5%)。浜松市天竜区では、天竜川や阿多古川の流域で「天竜茶」がつくられ、明治年間から茶業が盛んだった。朝霧のかかる山間の茶園で育つお茶は、香りが高いという。今回いただいたお茶の産地までは分からない。

かまどと囲炉裏のある農家の宿
今回お借りしたのは、天空の里の斜面に建つ農家の宿。タイル張りのかまどと囲炉裏が今も現役で、宿主が譲ってもらったものや廃材で手作りした露天風呂からは、谷の向こうの山並みが見渡せる。赤い首輪の柴犬とヤギが暮らしている。
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