
この旅のこと
山手線の東側、東京の下町に残る長屋で朝を迎えた。天保八年創業の佃煮店と、人形町の豆腐店で買った材料で朝ごはんを作り、月島ではもんじゃ焼きとあんこ巻き。上野のアメ横で夕食の買い物をして、長屋の台所でオムライスを作った。古き良き東京を、食べて歩いた一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
下町の朝
ここは山手線の東側、東京の「下町」。高層マンションを背にした船溜まりに、小さな船が並んでいる。石の鳥居の向こうには住吉神社の社殿が見え、路地には錆びた郵便受けや植木鉢、自転車が並んでいた。
奇跡的に戦火を免れた場所も多く残っていて、当時の文化や雰囲気を味わうことができる。細い路地の先に、朝日を受けた赤い鳥居が見えた。
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天保八年の佃煮店
軒下に「元祖 佃煮 天安」の古い看板。天保八年(1837年)創業という、佃に現存する店の中でいちばん古い佃煮の老舗だ。瓦屋根の軒に「天安」ののれんが下がり、店先には「創業 天保八年」ののぼりが立っていた。
ガラスケースの中には、赤い箱に盛られた佃煮が並ぶ。いかあられに、あさり。華やかな東京のビル群とはまた違った、古き良き時代を感じさせる店構えだった。
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下町の豆腐屋さん
朝の光が差す通りを歩いて、豆腐屋へ。緑のひさしを出した小さな店で、店先の冷蔵ケースには木綿や絹ごし、厚揚げやがんもどきが赤い値札と一緒に並んでいる。近所の料理店にも卸しているという人気の店だ。
二階の壁は緑青の浮いた銅板貼りで、換気扇の煙突が突き出している。隅田川の向こうには高層ビルが並び、水面がきらきらと光っていた。穏やかな時間が、ここでは流れている。
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ごきげんな朝食
買ってきた材料で朝食にしよう。小ねぎを刻み、鮭の切り身をオーブントースターへ。皮がこんがり焼けたら、台所の炊飯器からご飯をよそう。
急な木の階段の脇を抜けて、障子の前の座卓に膳を運ぶ。炊きたてご飯、焼きたての鮭。そして出来たての豆腐と刻みねぎの入った味噌汁に、下町名物の佃煮。
縞模様の小鉢には、あさりと昆布の佃煮。甘辛く煮詰めた味が、白いご飯によく合う。ごきげんな朝食だ。
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長屋に残る、祖父の記憶
泊まっているのは、東京下町の古い長屋を使った宿。ここには宿主の祖父の貴重な私物も展示されている。木の棚の下に古い映写機の箱、革のケースに収まったカメラ。
当時としては大変珍しい海外への渡航。その様子を写したカメラや、旅券に押されたビザに、思いを巡らせることができる。ビザの日付は1960年のものだった。
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下町名物、もんじゃ焼き
東京下町といえば「もんじゃ焼き」。もんじゃ焼きのルーツは子供の駄菓子。だから美味しいだけではなく、楽しいのだと思う。
鉄板に山盛りの刻みキャベツと薄切り肉をのせ、ヘラで細かく刻みながら炒める。具で丸い土手を作り、真ん中に生地を流し入れる。グツグツと言ってきたら頃合い。えいや、と一気にかき混ぜる。
ソースの焦げる香りが食欲を掻き立てる。全体に混ざったら、薄く手早く伸ばし、チーズとベビースターラーメン、そして青のりをのせたら、ビールにピッタリのもんじゃ焼きの完成だ。
小さなヘラで端の方からすくって、手前に引き寄せながら鉄板に押し付け、少し焦げ目を付けて香ばしくいただく。壁には「なすバター」「玉ねぎバター」と手書きの品書きが並び、卓上にはソースと醤油の瓶が置いてあった。
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07TRAVEL JOURNAL
同じ鉄板で、あんこ巻き
さて。ここで終わらないのがもんじゃ焼きの楽しいところ。デザートも同じ鉄板で作るのだ。
鉄板に生地を丸く薄く伸ばし、皿に盛ったあんこを箸でのせる。ヘラで生地を折って、クルッと巻いたらあんこ巻きの完成。三角に切り分けると、香ばしくて甘くて、熱々で美味しい。
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夕暮れの月島から商店街へ
店を出ると、もんじゃ焼きの店の提灯に明かりが灯っていた。路地裏の店先には、写真がびっしりと貼られている。酒屋のトラックからビールケースが運ばれ、電柱の脇には「大衆酒場 岸田屋」の看板が掛かっていた。
椿の花の向こうに夕方の空。床屋のサインポールが回る路地を抜け、柳の木の下の古い店構えの前を通って、アーチ看板のある商店街へ。商店街で夕食の買い物をして帰ろう。
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アメ横で、夕食の買い物
上野の高架下、「アメ横」の看板をくぐる。上野駅と御徒町駅の間、およそ500メートルに400以上の店が並ぶ商店街だ。果物や野菜の露店、氷の上に魚介を並べた店先に、買い物客が集まっている。
夕暮れの上野の通りを歩くと、路地の先に東京スカイツリーが見えた。信号の灯る交差点を渡って、長屋へ帰る。夕食にもう一つ、東京名物を。
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昔ながらの洋食、オムライス
東京名物といえば色々とあるけれど、昔ながらの洋食も東京名物という印象がある。今夜はオムライス。玉ねぎを刻み、鶏肉と一緒にケチャップで炒めて、ご飯を加えて木べらで混ぜる。
ボウルに卵を割りほぐし、熱したフライパンに流し入れる。薄焼きの卵でケチャップライスを包み、おたまでケチャップをたっぷりかけた。西洋文化と日本文化の交わるハイカラな時代に、思いを馳せながら。
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東京の夜にカンパイ
缶を開けて、東京の夜にカンパイ。実際のところオムライスは大阪発祥と聞くけれど、今日のところは、まあ堅いことは言わず。スプーンを入れると、卵の下からケチャップライスが顔を出した。
いろいろな人や物が集まって文化を形成した、味わい深い街、東京。今日は江戸っ子っぽく、熱めの風呂にへえってみるか。風呂場の曇った鏡には、古い飲み物の広告が残っていた。すだれ越しに明かりの灯る長屋に、夜が更けていく。
この場面から映像で見る5:41THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの東京・下町メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

佃煮 天安本店
東京都中央区佃1-3-14
天保八年(1837年)創業、佃に現存する店の中でもっとも古い佃煮の老舗。間口の狭い町家の店構えで、ガラスケースにあさり・あみ・昆布・いかあられなどの佃煮が並び、量り売りしてくれる。朝食には、あさりと昆布の佃煮を買った。

高柳豆腐店
東京都中央区日本橋人形町1-8-10
人形町の裏通りにある、昔ながらの町の豆腐屋さん。緑のひさしの下の冷蔵ケースに木綿・絹ごし・厚揚げ・がんもどき・納豆が並び、正面を銅板で覆った二階の壁は緑青が浮いている。近隣の料理店にも卸しているという。出来たての豆腐を、朝の味噌汁に使った。

路地裏もんじゃ もん吉 本店
東京都中央区月島3-8-10
もんじゃストリート(月島西仲通り)の路地裏にある人気店で、店先には写真がびっしりと貼られている。キャベツと豚肉のもんじゃに、チーズとベビースターラーメン、青のりをのせて食べた。デザートは同じ鉄板であんこ巻き。壁には「なすバター」「玉ねぎバター」など手書きの品書きが並ぶ。
出典: gltjp.com

アメ横(アメヤ横丁)
JR上野駅と御徒町駅の間、およそ500メートルに400以上の店が並ぶ商店街。戦後の闇市から発展したもので、名前は飴屋が多かったことから「飴屋横丁」とする説と、アメリカからの舶来品が多かったことから「アメリカ横丁」とする説がある。夕食の買い物に、果物や魚介の露店をのぞいた。
出典: ameyoko.net
02作った料理

下町の朝ごはん(焼き鮭と豆腐の味噌汁)
佃煮は、隣の佃が発祥の地。徳川家康が招いた大阪の漁師たちが、保存食や出漁時の食料として小魚や貝類を塩や醤油で煮詰めたのが始まりとされ、日持ちがして安いことから江戸の人々に広まった。今回は天保八年創業の店のあさりと昆布を、近くの豆腐店の出来たての豆腐で作った味噌汁と一緒に。
材料ご飯・鮭の切り身・出来たての豆腐・小ねぎ・海藻・味噌・佃煮(あさり・昆布)
- 小ねぎを刻む
- 鮭の切り身をオーブントースターで、皮がこんがりするまで焼く
- 豆腐と海藻、刻みねぎの味噌汁を作る
- 炊きたてのご飯と佃煮を添えて膳に並べる
出典: mec-h.com

オムライス
オムライスには、大正の終わりごろ、大阪の洋食店の店主が、胃を悪くした常連客のためにケチャップライスを薄焼き卵で包んで出したのが始まりという説がある。一方で東京にも古い洋食店が多く、昔ながらの洋食は東京の味という印象がある。この日は長屋の台所で、鶏肉と玉ねぎのケチャップライスを卵で包んだ。
材料ご飯・鶏肉・玉ねぎ・卵・ケチャップ・パセリ
- 玉ねぎを刻む
- 鶏肉と玉ねぎをケチャップで炒め、ご飯を加えて混ぜる
- 卵を割りほぐし、熱したフライパンに流して薄焼きにする
- ケチャップライスを卵で包み、ケチャップをかける
03土地のこと

月島と佃
佃は、徳川家康が招いた摂津国佃村の漁師たちが築いた漁師町で、佃煮の発祥の地。月島は1892年(明治25年)に東京湾の埋め立てでできた島で、埋め立て地なので当初は「築島」と呼ばれた。関東大震災後の復興事業で整備された路地に長屋が立ち並び、太平洋戦争の戦災も免れて、戦前からの町並みが残る。月島西仲通り商店街は「もんじゃストリート」と呼ばれる。

住吉神社(佃)
東京都中央区佃1-1-14
正保3年(1646年)、佃島を築いた漁師たちの故郷である摂津国佃村の田蓑神社から分霊を迎えて祀った神社。江戸湊の入口にあたることから海上安全の守護神として信仰され、今は月島・勝どき・晴海などの氏神でもある。例祭は8月6日・7日で、3年に一度の例大祭では宮神輿が船で渡御する。

佃煮
小魚や貝類、海藻などを醤油と砂糖で甘辛く煮詰めた保存食。佃の漁師たちが保存食や出漁時の食料として作っていたものが、日持ちがして安いことから江戸の人々に評判となり、地名から佃煮と呼ばれるようになったとされる。天安本店では、あさり・あみ・昆布・いかあられ・しらすなど、昔ながらの製法で炊きあげた佃煮を売っている。
出典: mec-h.com tenyasu.jp

もんじゃ焼き
小麦粉を水で溶いたゆるい生地を、キャベツなどの具と一緒に鉄板で焼く東京下町の名物。月島西仲通り商店街の近くの駄菓子屋で売られていた「文字焼き」がルーツとされ、焼きながら鉄板に文字や絵を描いて遊んだことから名がついたという。戦後、小麦粉と出汁があれば作れることから広まり、キャベツや中華麺でかさを増すようになった。1980年代には餅や明太子、チーズを使ったものが登場して、食事として定着した。
出典: mec-h.com ddnavi.com

東京下町の長屋の宿
今回お借りしたのは、東京の下町に残る古い長屋を使った宿。急な木の階段と古い建具、障子の間があり、宿主の祖父が使った映写機やカメラ、旅券が展示されている。
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