
この旅のこと
猫のいる古民家で、長野の一日が始まった。米粉で名物のおやきを作り、縁側で朝ごはん。薪ストーブに火を入れてから、紅葉の山道を抜けて中山道の宿場町、奈良井宿へ。温かい山菜そばで体を温め、夜は信州牛のすき焼きで一日を締めくくった。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
猫と迎える朝
長野県の古民家で、朝を迎えた。障子の間の窓辺でカーテンを開けると、外はもう明るい。
この家には看板猫がいる。木の椅子の上で、茶トラの猫が目を閉じて丸くなっていた。猫とお蕎麦と宿場町。長野で過ごす一日の始まりだ。
この場面から映像で見る0:2302TRAVEL JOURNAL
米粉で、おやきの生地を
朝食には、長野の名物「おやき」を作ってみよう。テーブルに置いたステンレスのボウルに、計量カップで水を注ぐ。生地には小麦粉を使うのが一般的だけれど、今日は米粉で作ってみる。
粉に水が染みていくのを手で混ぜ、まとまってきたらボウルの中で押すようにこねる。白い生地がなめらかになって、ひとかたまりに持ち上がった。
具には、やはり名物の野沢菜を入れたい。まな板で野沢菜漬けを刻み、油揚げと一緒にフライパンで軽く炒める。醤油の焦げる香りに、お腹が空いてきた。
この場面から映像で見る0:2803TRAVEL JOURNAL
包んで、焼いて
手のひらにのばした生地に、炒めた野沢菜をのせて包む。餃子なら包んだことがある。窓辺では猫が、手元をじっと見ていた。
フライパンに並べて、菜箸でひっくり返す。しばらくすると、白い生地にこんがりと焼き目がついた。
まな板で切ってみると、これは、具が少ない。それでも米粉のおやきの完成だ。庭の柿の木には、実がたわわに色づいていた。
この場面から映像で見る0:5804TRAVEL JOURNAL
縁側の朝ごはん
障子の間の奥、開け放った戸口に立って庭を眺める。お盆に皿をのせて、焼きたてのおやきを運んだ。
縁側に腰かけて、朝の日差しの中でおやきをほおばる。具は少なかったけれど、米粉の生地はもちもちして、自分で作ったおやきは思いのほか美味しかった。
この場面から映像で見る1:3105TRAVEL JOURNAL
薪ストーブで暖をとる
家の脇には薪が高く積まれ、軒下には作業用の手袋が掛けてある。薪を抱えて運ぶ足元に、猫がついてきた。
薪ストーブに火を入れる。扉の奥で炎が揺れはじめると、部屋がゆっくり暖まっていく。畳の上では猫が気持ちよさそうに寝そべり、石油ストーブのそばで背中を丸めていた。ちょっと出かけてきます。
この場面から映像で見る1:5706TRAVEL JOURNAL
紅葉の道
山あいの道は、紅葉の盛りだった。逆光に透ける赤や橙の葉の向こうに、山並みが見える。
落ち葉を敷きつめた道を、大きなもみじの木の下を歩いた。見上げると、青空いっぱいに真っ赤な枝が広がっていた。
この場面から映像で見る2:3507TRAVEL JOURNAL
宿場町、奈良井宿
向かったのは、中山道の宿場町「奈良井宿」。江戸と京を結ぶ中山道のちょうど真ん中にあたり、木曽十一宿のなかで最も標高の高い宿場だ。難所の鳥居峠を控えて多くの旅人でにぎわい、「奈良井千軒」と呼ばれたという。
奈良井川に沿って南北およそ1キロ、木造の町家が軒を連ねる。郵便の看板と赤いポスト、紺ののれんにサインポールの店先。二階がせり出した町家の前を歩いていると、まるで江戸時代の宿場に迷い込んだような気分になる。
通りには、木の樋から水が流れ落ちる水場があった。かつては鳥居峠を越える旅人の飲み水であり、宿場を守る防火用水でもあったそうだ。町並みは1978年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれている。通りの先には、紅葉の山が迫っていた。
この場面から映像で見る2:4608TRAVEL JOURNAL
温かい山菜そば
長野と言えば、なんと言ってもお蕎麦。宿場の中ほどにある手打そばの店に入った。お盆にのって運ばれてきたのは、温かい山菜そば。湯気の立つ器に、わらびやきのこ、ねぎがたっぷりのっている。
箸で持ち上げると、細めのそばがつゆをまとって光る。そばと山菜の味がつゆに染み出て、優しくて深くて、じんわりと美味しい。座敷で器を抱えるようにして、最後まで味わった。
店先には「手打そば」の行灯看板が掛かり、格子の壁に黄色い花が飾られていた。
この場面から映像で見る3:1309TRAVEL JOURNAL
ただいま、そして一杯のコーヒー
紅葉に囲まれた古民家に戻ってきた。庭先には宿の立て看板と、軒下に掛けた木の看板。ただいま。障子越しの光が差す部屋の奥で、猫がこちらを見ていた。
ストーブの上では、黄色いホーローのポットが湯を沸かしている。ドリッパーに湯を注ぐと、ガラスのサーバーにコーヒーがたまっていく。障子の部屋の机に向かって、地球儀とランプを眺めながら、ゆっくりとした午後を過ごした。
日が落ちるころ、高台からは、暮れていく湖と町のあかりが見えた。
この場面から映像で見る3:3910TRAVEL JOURNAL
信州牛のすき焼き
夕食は、長野の牛肉ですき焼き。まな板で長ねぎを切り、皿に舞茸とねぎを盛り付ける。卓上のコンロに鍋をかけ、割り下に牛肉を広げた。
長野の信州牛は、りんごの搾りかすなどを飼料に育てられることから「りんごで育った牛」とも呼ばれている。器に卵を割り入れて箸で溶き、煮えた肉をくぐらせて口に運ぶ。驚くほどに柔らかい。
鍋には豆腐と舞茸、輪切りのねぎを並べ、肉を加えていく。すき焼きは、煮える音や肉の色が変わっていく様子など、作る工程を楽しめるところも好きだ。
この場面から映像で見る4:4911TRAVEL JOURNAL
また別の表情に
暗くなった部屋で、卓上の鍋を前に座る。器に肉を取り分けて、グラスを傾けながら一日を振り返った。
今度は、雪の積もった長野にも来てみたい。また別の表情に会えるのが楽しみだ。
この場面から映像で見る5:53THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの長野・奈良井宿メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

そば処 相模屋
長野県塩尻市奈良井413
奈良井宿の中ほどにある手打そばの店。そば粉九割の細めのそばで、今回は温かい山菜そばをいただいた。テーブル席と奥の座敷がある。営業時間は掲載先によって違うので、行く前に確かめてほしい。
02作った料理

米粉のおやき(野沢菜)
おやきは、小麦粉やそば粉を練ってのばした皮で具を包んで焼いた、信州を代表する郷土料理。山間部は米づくりに向かなかったため、小麦やそばが米の代わりの主食として食べられてきた。上水内郡の西山地域が発祥とされ、具にはなす、きのこ、かぼちゃ、切干大根などが使われる。豪雪地帯の栄村には、米粉で作る「あんぼ」もある。1983年には「焼き餅(おやき)」が長野県の選択無形民俗文化財に登録された。今回は米粉の生地に、同じく長野の名物である野沢菜漬けを包んだ。
材料米粉・水・野沢菜漬け・油揚げ・醤油
- 米粉に水を加えて手で混ぜ、なめらかになるまでこねる
- 刻んだ野沢菜漬けと油揚げを、醤油で軽く炒める
- 手のひらで生地をのばし、具をのせて包む
- フライパンで両面に焼き目がつくまで焼く
出典: maff.go.jp maff.go.jp

信州牛のすき焼き
長野県の「りんごで育った信州牛」は、協議会が定めた基準を満たした黒毛和牛で、りんごジュースの搾りかすや、味噌・醤油づくりで出る大豆の煮汁といった県内の食品加工の副産物を飼料に使っている。脂の融点が低く、口どけがなめらかとされる。今回は舞茸と長ねぎ、豆腐と一緒に、卓上の鍋で煮ながら食べた。
材料牛肉(信州牛)・長ねぎ・舞茸・豆腐・割り下・卵
- 長ねぎを切り、舞茸と一緒に皿に盛る
- 卓上のコンロに鍋をかけ、割り下に牛肉を広げて煮る
- 豆腐、舞茸、ねぎを加え、肉を足しながら煮る
- 溶き卵につけて食べる
03土地のこと

奈良井宿
長野県塩尻市奈良井
中山道六十九次の34番目、江戸からも京からも同じ距離にある宿場町。木曽十一宿のなかで最も標高が高く、難所の鳥居峠を越える旅人でにぎわって「奈良井千軒」と呼ばれた。奈良井川に沿って南北およそ1キロ、二階が通りにせり出した「出梁造り」の町家が続く。宿内には6か所の水場があり、旅人の飲み水と防火用水を兼ねていた。1978年5月31日、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
出典: naraijuku.com go-nagano.net go-nagano.net ja.wikipedia.org

信州そば
そばは米や小麦が育ちにくい冷涼な高冷地でも育つため、長野では古くから栽培されてきた。昼夜の寒暖差が大きく、澄んだ水にも恵まれている。細く切った「そば切り」は江戸時代のはじめごろに現れたとされ、1645年の『毛吹草』には「そば切りは信濃国の名物」と記されている。塩尻市の本山宿は、そば切り発祥の地のひとつとされる。1983年には「手打ちそば」が長野県の選択無形民俗文化財に登録された。

野沢菜漬け
野沢温泉村の寺の住職が1756年に京都から持ち帰った天王寺かぶから生まれたと伝わる。標高が高く雪の多い土地では、かぶの実より葉と茎が育ち、村の名をとって「野沢菜」と呼ばれるようになった。霜に当たって甘くなる11月以降に収穫し、塩で漬ける。お茶請けのほか、おにぎりやおやきの具としても親しまれ、1983年に長野県の選択無形民俗文化財「味の文化財」に選ばれた。
出典: maff.go.jp

りんごで育った信州牛
長野県の黒毛和牛のブランド。りんごジュースの搾りかすや、味噌・醤油づくりで出る大豆の煮汁など、県内の食品加工の副産物を飼料に加えて育てる。出荷月齢は28〜32か月、肥育地は県内の指定農場、格付は4等級以上と定められている。脂の融点が低く、くどくないなめらかな味わいとされる。

猫のいる古民家
今回お借りしたのは、薪ストーブと石油ストーブのある古民家。障子の部屋に地球儀とランプの置かれた机があり、縁側で庭の柿の木を眺められる。看板猫の茶トラが、台所でも畳の間でもそばにいてくれた。
PHOTO ALBUM写真を見渡す67全写真をひらく一覧を閉じる
写真を選ぶと、大きな画面で一枚ずつ眺められます。


























































