
この旅のこと
瀬戸内海に浮かぶ香川県の粟島で、朝を迎えた。三豊に伝わる郷土料理「肉もっそ」を作って風呂敷に包み、小さな旅客船で隣の志々島へ。樹齢1200年と伝わる大楠を見上げ、島の人が育てる「天空の花畑」を歩いて、手作りの展望台で海を眺めながら朝ごはんを食べた。島の人の温かさに触れた一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
粟島の朝
香川県三豊市の沖、瀬戸内海に浮かぶ粟島で朝を迎えた。港の向こうの山から朝日が昇り、海面に光の道がまっすぐ延びている。集落の道の真ん中では、白黒の猫がちょこんと座っていた。
借りている家は、集落の道に面した古い民家。障子を開けると玄関に朝の光が入り、台所の格子窓にはドライフラワーが掛かっている。棚にはグラスと木の器。革の靴と紐のネックレスを脇に置いて、朝ごはんの支度にかかる。
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三豊の郷土料理、肉もっそ
朝ごはんには、肉もっそを作ってみよう。ここ香川県三豊市のあたりに伝わる郷土料理だ。ガラスの器で干し椎茸を戻し、にんじんを細かく刻む。皿には、いんげんも用意した。
フライパンで牛肉を炒め、ごぼうとにんじん、豆腐を加えて、干し椎茸の戻し汁で炊き込む。砂糖と酒と醤油で甘辛く味を付けると、台所に湯気と醤油の香りが立った。
炊き上がった具と煮汁を、ご飯の器に移す。しゃもじで底から返すように、ざっくりと混ぜ込んでいく。
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ぎゅっと握らず、ふんわり包む
肉もっそは、おむすびのようにぎゅっと握るのではない。ラップの上にいんげんを置き、混ぜご飯をのせて、ふんわりと包んで形を整える。窓辺では、琥珀色のグラスが朝の光を受けていた。
丸く包んだ肉もっそが2つ、木の皿に並んだ。赤い風呂敷に包んで、隣の島へ持っていこう。景色を眺めながら食べる朝ごはんだ。
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瀬戸内の島でピクニック
大きなテーブルの上に吊りランプが並ぶ部屋を抜けて、家を出る。戸口の向こうには石段と、朝の緑。道端にはピンクの花が咲いていた。瀬戸内の島でピクニックだ。
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小さな船で、隣の島へ
港には朝もやがかかり、小舟がゆっくりと行き交っている。桟橋に着いた船の船体には、粟島・上新田・志々島・宮の下と、寄港地の名前が並んでいた。粟島と志々島、そして本土の宮の下港を結ぶ、小さな旅客船だ。
甲板に立って、遠ざかる港を見送る。フェリーに揺られて、瀬戸内の景色を楽しむ。航跡の白が海に溶け、かすんだ島影がいくつも浮かんでいた。やがて、赤い鳥居と小さな社のある岸壁が近づいてくる。
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塩飽諸島の小さな島、志々島
塩飽諸島の小さな島、志々島に到着。港には「ようこそ志々島へ」の案内板と、猫の顔を描いた浮きが置かれていた。人口20人ほどの島で、車は走っていない。
ソテツの木の下を抜けて、集落へ。古いたばこの看板が残る商店の軒先や、石垣に挟まれた細い路地が、かつて千人以上が暮らした島の時間を伝えている。
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寅さんも訪れた島の、お休み処
港の近くの古い商家が、島のお休み処になっている。窓には「お休み処」と「冷たい飲み物あります」の貼り紙。中に入ると、額に入った古い記念写真が、布団の上に立てかけてあった。ここは映画「男はつらいよ 寅次郎の縁談」のロケ地。かつて、あの寅さんも訪れた島だ。
劇中、寅さんはカバンをベンチに置きっぱなしにした。「この島に泥棒はいない」。お巡りさんが、そう答えたからだ。
机には菓子やカップ麺が並び、「どれでも1コ100円」の札と、お金を入れる箱がある。棚にはオロナミンCと缶コーヒー、お茶。お代金入れの瓶に代金を入れて、1本いただく。養命酒の赤い暖簾と扇風機、飾り棚には映画の写真。森の中を歩くから、元気ハツラツになっておこう。
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樹齢1200年の大楠
坂道を登っていくと、森の中に島のシンボルが現れた。樹齢1200年と伝わる大楠だ。地面から太い幹が四方へ伸び、枝が空いっぱいに広がっている。根元には「大楠神社」の札が掛かった赤い鳥居と、小さな祠があった。
見上げると、若葉をつけた枝の間から木漏れ日がこぼれていた。「生命力」という言葉が思い浮かぶ。荘厳で神秘的な空間に、しばらく立ち尽くした。
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天空の花畑
大楠を越えて、斜面の花畑へ。志々島はかつて、島全体に花畑が広がる「花の島」だった。その景色を復活させようと、島の人々が今も花の世話をされている。芝桜のピンクと白い花が斜面を埋め、足元にはネモフィラの青が広がる。
畑の先では、島の人が畝を整えていた。その向こうに、瀬戸内の海と島影。そんな想いがつまった「天空の花畑」だ。花畑の一角には、「幸せの鐘」と書かれた木の看板と、小さな鐘が下がっていた。
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楠の倉展望台で、朝ごはん
木立の先に、小屋が見えてきた。地元の方お手製の「楠の倉展望台」だ。白い花が咲く斜面に、板張りの小屋がひとつ。中には丸いテーブルとベンチがあり、切り取られた窓の向こうに瀬戸内の海が広がる。
風呂敷をほどいて、肉もっその朝ごはん。海を眺めながら、ゆっくりと食べた。悠久の時間を過ごした大楠が見守る小さな島。そこは、島の人々の温かさであふれている場所だった。
この場面から映像で見る5:37THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの香川・粟島と志々島メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

いせや商店
香川県三豊市詫間町志々島398
志々島の港のすぐ近く、江戸時代に建てられたという古民家を活かしたお休み処。縁側に腰かけてくつろげる、島の人が集まる場所でもある。菓子やカップ麺、冷たい飲み物は無人販売で、代金は机の箱や瓶に入れる。今回はオロナミンCを1本。壁には映画の写真が飾られていた。
出典: do-mitoyo.com
02作った料理

肉もっそ
三豊市に伝わる「もっそうめし」の、牛肉を使ったもの。木型で押し抜いたご飯を「物相飯(もっそうめし)」と呼び、修行僧が一膳のご飯で食事を済ませた精進料理が起源とされる。三豊市では、五穀豊穣や厄払いを願う百々手祭りの会食として出され、川ざらえや棟上げなど、住民総出の共同作業のまかない飯としても振る舞われてきた。豊中町では荒神さんの祭りのあと、頭家がつくって皆で食べたという。具を甘辛く煮て、煮汁ごとご飯に混ぜるのが基本。今回は型で抜く代わりに、ラップでふんわりと包んだ。
材料ご飯・牛肉・ごぼう・にんじん・豆腐・干し椎茸(戻し汁)・砂糖・酒・醤油・いんげん
- 干し椎茸を水で戻し、にんじんを刻む
- 牛肉を炒め、ごぼう・にんじん・豆腐を加えて、椎茸の戻し汁で炊く
- 砂糖・酒・醤油で甘辛く味を付ける
- 具と煮汁を炊いたご飯に混ぜ込む
- ラップの上にいんげんを置き、ご飯をのせてふんわり包む
出典: maff.go.jp
03土地のこと

粟島
塩飽諸島の島のひとつで、三豊市の詫間港から北西へ約4.5キロの海上にある。面積3.72平方キロ、3つの島が砂州でつながった、スクリューのような形をしている。1897年に日本で最初の村立の海員学校として粟島海員学校が設立され、1987年の廃校まで90年余り続いた。跡地は粟島海洋記念公園になっている。須田港から粟島汽船の船で約15分。
出典: ja.wikipedia.org

粟島と志々島を結ぶ船
粟島汽船が、本土の須田港・宮の下港と、粟島港・上新田・志々島の間で旅客船を運航している。志々島の港には車道が通じていないため、車は積めない。宮の下港と志々島の間は約20分。春の花の季節は乗船に定員があり、三豊市観光交流局は須田港から粟島経由の便や海上タクシーも案内している。

志々島
塩飽諸島の小さな島で、三豊市(旧詫間町)に属する。面積は約0.74平方キロ。明治・大正期には1000人以上が暮らしたが、今は20人ほどで、島に自動車はない。1993年公開の映画「男はつらいよ 寅次郎の縁談」(第46作)では「琴島」として、2004年の「機関車先生」でもロケ地になった。埋め墓と参り墓を分ける両墓制の風習が残り、港の近くには色鮮やかな霊屋が並ぶ。

志々島の大楠
島の北側、山の中腹に立つクスノキの巨木。樹齢は約1200年と推定され、根回り12メートル、高さ22.5メートル。枝張りは最長26メートルに及ぶ。1970年4月に香川県の天然記念物に指定された。根元は過去の土砂崩れで埋まり、地中から出た幹が四方へ太い枝を広げている。根元に「大楠神社」の祠がある。港から徒歩20分ほど。

天空の花畑
志々島では戦後、除虫菊や花の栽培が盛んで、最盛期には100軒以上の農家が小菊・ストック・マーガレット・キンセンカなどを仏花向けに育て、「花の島」と呼ばれた。その後いったんすべて廃業したが、2015年から、かつて花き農家を営んでいた女性とその息子夫婦が山や畑を整備して種をまき、芝桜やキンセンカ、ネモフィラなど約15種類の花を育てている。見頃は3月下旬から5月。港から徒歩15分ほど。

楠の倉展望台
島の人たちが協力して、大楠の上の高台に設けた手作りの展望台。板張りの小屋の窓が額縁のように海を切り取り、中のベンチに座って眺められる。北に笠岡諸島、東に高見島や瀬戸大橋、南に四国本土の山並みを一望できる。

「男はつらいよ 寅次郎の縁談」とこの島
1993年12月公開の「男はつらいよ」第46作。監督は山田洋次、マドンナは松坂慶子。神戸で飲食店を営んでいた葉子が、病気のため父の住む琴島で療養している。寅さんは家出した満男を連れ戻しに島へやってきて、葉子と心を通わせる。劇中の琴島は、志々島と近くの高見島で撮影された。

粟島の古民家宿
今回お借りしたのは、粟島の集落の道に面した古い民家。吊りランプの並ぶ大きなテーブルの部屋に、格子窓の台所、障子越しに光の入る玄関がある。
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