
この旅のこと
日本でただひとつ、村の名前に「温泉」がつく野沢温泉村。朝は麻釜のそばで卵を温泉に沈め、茹でたてのトウモロコシと一緒に食べた。湯けむりの坂を歩いて野沢菜とおやきを買い、築200年の古民家の縁側で夕暮れを迎える。外湯で温まった夜は、居酒屋で野沢菜しゅうまいと馬刺し。温泉の恵みに暮らしが寄り添う村で過ごした一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
「温泉」の名を持つ村
山あいに田畑が広がる、北信州の里。神社の鳥居を紅葉が彩り、その先の温泉街には、朝から白い湯けむりが立ちのぼっていた。長野県の野沢温泉村。日本でただひとつ、村の名前に「温泉」がついている村だ。
湯けむりの源にかけられた木のふたの上に、竹かごを置く。中にはトウモロコシ。この村では、温泉で食材を茹でることができる。かごを湯に沈めて、朝ごはんの支度が始まった。
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麻釜のそばで
この湯けむりの中心にあるのが「麻釜(おがま)」。90度近い熱湯が湧く源泉で、天然記念物の看板が立ち、「熱湯で危険です」の札が柵に掛かる。地元の人は今もここで山菜や卵を茹で、野菜を洗う。温泉が、村の暮らしに深く関わっている。
麻釜のすぐそばには、観光客も使える茹で場がある。木のふたを両手で持ち上げると、湯気がどっと顔にかかった。かごを引き上げて、朝ごはんのできあがり。
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温泉たまごとトウモロコシ
青い皿に、熱々のトウモロコシと笹団子。トウモロコシと団子は、店の人が茹でたてを持たせてくれたもの。そして、定番の温泉たまご。時間を守って茹でただけなのに、殻をむくと白身がぷるんと震えた。
黄身はとろりと半熟。気温の低い朝だったけれど、湯気と一緒にほおばれば寒さも忘れる。東屋のベンチに腰かけて、屋根の連なる温泉街を眺めながらの朝ごはんだった。
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湯けむりの坂と、野沢菜の店
麻釜の湯だまりからは、ひっきりなしに湯気が上がる。看板の並ぶ店の前を抜けて、石垣の坂道を上った。温泉街といえば、食べ歩き。
最初に立ち寄ったのは、野沢菜漬けと乾物の店。「野沢菜新漬(あっさり味)」の袋に、野沢菜の種、あんずのしそ巻き、瓶詰め。乾燥ぜんまいや小豆の値札も並ぶ。店先で野沢菜を一袋、今夜の分に買った。
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おやきと温泉まんじゅう
麻釜の標柱の向こうで、湯気が石段を白く包む。まずは信州名物の「おやき」。手で割ると、野沢菜の具がぎっしり詰まっていた。以前、長野の古民家で見よう見まねで作ったことがあるけれど、本物はやっぱり別格だった。甘じょっぱい味付けが、温かい生地によく合う。
そして温泉まんじゅう。温泉街でまんじゅうを食べることは、温泉に浸かるのと同じくらい大切なことだ。「名物 温泉まんぢう 製造元」の看板が出た店先で、こしあんの詰まった一つを割った。
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里山の古民家へ
温泉街の通りを抜けて、今夜の宿へ向かう。赤い屋根の家の向こうに山並みが続き、落ち葉の小道を歩いていくと、紅葉の中に鐘楼が見えてきた。軒には、白い野菜の束が干してある。日本の原風景とも呼べる、美しい里山だ。
お借りするのは、きれいに改修された築200年の古民家。土間の壁には蓑と笠。板壁の前には糸車とわら細工、囲炉裏には鉄瓶と鉄鍋が掛かっている。板張りの外壁のまわりで、ススキが午後の光に揺れていた。
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縁側の夕暮れ
薄暗い座敷に、木彫りの魚が吊り下がる。障子を開けると、村の静かな夕暮れ時だった。
縁側に盆を置いて、急須からお茶を注ぐ。気持ちのいい縁側でひと息。通りにはススキが揺れ、山の端が夕焼けに染まっていく。穏やかで、平和な時間が流れる。
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湯屋建築の外湯
日が落ちて、また温泉街へ。湯気の上がる木ぶたの前を通って向かったのは、村のシンボル「大湯」。唐破風の屋根を持つ湯屋建築で、野沢温泉村には、こうした外湯(共同浴場)が13か所点在している。
入口には「男湯」の札と賽銭箱。外湯は野沢組が源泉を供給し、地域の「湯仲間」が資金を出して管理運営している、と札に書かれていた。「源泉かけ流しの湯」の木札を見上げて、のれんをくぐる。夜の通りには、旅館や土産物店の明かりが灯っていた。
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湯上がりの一杯
源泉かけ流しの名湯で温まった身体に、間髪入れずレモンサワーという名水を流し込む。赤い提灯の下がる居酒屋「はと車」。温泉街というものは、まさに桃源郷である。
突き出しは山菜の煮物。名物をアレンジした「野沢菜しゅうまい」は、皮の代わりに刻んだ野沢菜をまとわせたしゅうまいで、たれにつけてほおばる。白い汁物の小鉢にねぎと七味。そして、馬肉文化のある長野らしく、馬刺しも絶品だった。
店を出ると、街灯の明かりの下で、温泉街の夜は更けていく。
この場面から映像で見る3:3310TRAVEL JOURNAL
野沢菜で〆る
古民家に戻って、炊飯器でご飯を炊く。〆は、温泉街で買った野沢菜だ。茎と葉を細かく刻んで、油揚げと一緒にフライパンで炒める。
炊きたてのご飯にたっぷりのせて、真ん中に温泉たまごを割り落とす。刻み海苔と白ごまを散らせば、野沢菜と温泉たまごの丼のできあがり。
この場面から映像で見る4:2811TRAVEL JOURNAL
温泉の恵み
丸い照明の灯る座敷で、グラスを傾けながら丼をかきこむ。温泉たまごを崩すと、黄身が野沢菜にからんだ。
いにしえの時代から大切にされてきた温泉。その恵みを享受する暮らしを体験することができて、幸せだ。
この場面から映像で見る4:49THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの野沢温泉メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

居酒屋 はと車
長野県下高井郡野沢温泉村豊郷8737
赤い提灯とのれんが目印の居酒屋。レモンサワー、山菜の煮物、刻んだ野沢菜をまとわせた「野沢菜しゅうまい」、白い汁物、馬刺しをいただいた。営業時間や定休日は掲載先によって違うので、行く前に確かめてほしい。
出典: tabelog.com retty.me

麻釜近くの野沢菜漬けと乾物の店
屋根付きの開放的な店先に、野沢菜新漬・野沢菜の種・あんずのしそ巻き・瓶詰め・乾燥ぜんまい・小豆などが並ぶ。今夜の分の野沢菜漬けをここで買った。

おやきを買った店
温泉街の店先で、野沢菜入りのおやきを一つ。甘じょっぱい味付けで、温かい生地によく合う。

温泉まんじゅうの店
「名物 温泉まんぢう 製造元」の看板と木の蒸し箱が店先に出ている。こしあんの温泉まんじゅうを一つ。
02作った料理

温泉で茹でる温泉たまご
野沢温泉の源泉「麻釜」では、90度近い湯が湧き、地元の人が山菜や卵を茹でてきた。麻釜そのものは村民以外は立ち入れないが、観光客向けに卵を茹でられる場所が村内にいくつかある。かごに入れて時間を守るだけで、白身がぷるんとした半熟の温泉たまごになる。
材料卵
- 卵を竹かごに入れ、茹で場の湯に沈める
- 時間を守って待つ
- かごを引き上げ、殻をむく

野沢菜と油揚げの炒め、温泉たまごのせ丼
野沢菜は、宝暦6年(1756年)に野沢温泉村の健命寺の住職が京都から持ち帰った天王寺かぶが起源と伝わる。雪深い土地でかぶの実は育たず、葉と茎だけが大きく育ったのが始まりという。塩漬けにした野沢菜漬けは、お茶請けやおにぎりやおやきの具として親しまれ、油と相性がよく炒め物にも向く。1983年に長野県の選択無形民俗文化財「味の文化財」に選ばれた。
材料ご飯・野沢菜漬け・油揚げ・温泉たまご・刻み海苔・白ごま
- 野沢菜漬けの茎と葉を細かく刻む
- 油揚げと一緒にフライパンで炒める
- 炊きたてのご飯にのせ、温泉たまごを割り落とす
- 刻み海苔と白ごまを散らす
出典: maff.go.jp
03土地のこと

麻釜(おがま)
長野県下高井郡野沢温泉村豊郷8713-ロ
野沢温泉の源泉のひとつで、90度近い熱湯が湧く。大釜・丸釜・ゆで釜・竹のし釜・下釜の5つの湯だまりの総称で、名前は昔、麻の皮をむくために麻を浸したことに由来するという。村の天然記念物に指定され、地元の人は山菜や卵を茹でたり、あけびのつるを浸けたりと、湯だまりごとに使い分けている。熱湯のため、村民以外は立ち入れない。
出典: go-nagano.net

大湯と13の外湯
野沢温泉村には13の外湯(共同浴場)があり、「湯仲間」という制度で村人が維持・管理している。天然温泉100%かけ流しで、入浴料の代わりに湯仲間への協力金として寸志を納める。温泉街の中心にある「大湯」は村のシンボルで、江戸時代の湯屋建築の姿を伝える(現在の建物は平成6年に再建されたという資料もある)。泉質は単純硫黄泉で、湯船はあつ湯とぬる湯に分かれている。

「温泉」の名を持つ村
長野県下高井郡の野沢温泉村は、村の名前に「温泉」がつく日本でただひとつの村。温泉の管理は、江戸時代から続く自治組織「野沢組」が担っている。村の花は野沢菜の花。

茹でたてのトウモロコシと笹団子
麻釜のそばの茹で場で、温泉たまごと一緒に食べた。トウモロコシは店の人が茹でたて熱々のものを持たせてくれたもので、ちょうどよい塩加減。笹の葉で包んだ団子も、やわらかく茹でられていた。

信州のおやき
長野県でもっとも知られた郷土料理のひとつ。小麦粉などの生地で、野沢菜や季節の野菜、あんこなどを包み、焼いたり蒸したりする。具や作り方は地域ごとに違い、おやきの地図が作れるほどといわれる。1983年、野沢菜漬や手打ちそばとともに長野県選択無形民俗文化財に登録された。
出典: maff.go.jp

長野の馬肉文化
長野県の馬肉食は、明治後期に年老いた農耕馬を食べるようになったのが始まりとされ、中南信地域を中心に根付いた。熊本・福島に次いで馬肉文化が盛んな県といわれる。
出典: go-nagano.net

築200年の古民家宿
今回お借りしたのは、きれいに改修された築200年の古民家。土間に蓑と笠、板壁の前に糸車とわら細工、囲炉裏には鉄瓶と鉄鍋が残り、縁側から里山の夕暮れを眺められる。
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