
この旅のこと
江戸の終わりから明治にかけて建てられた商家が、今も整然と並ぶ近江八幡。明治の終わりごろの町家を借りて、鮒ずしのお茶漬けで朝を始めた。和舟で八幡堀をめぐり、昭和レトロな食堂で昼ごはん。焼きたてのつぶら餅と八幡カステラを食べ歩き、夜はちゃぶ台で近江牛と赤こんにゃく。時代劇のような町で、近江の味を楽しんだ一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
町そのものが時代劇
滋賀県の近江八幡は、江戸時代の終わりから明治にかけて建てられた近江商人の商家が、今も整然と残る町だ。堀に沿って白壁の土蔵が並び、屋根つきの舟がゆっくりと水の上を行く。
石垣の上に土蔵の立つ堀端を歩いていくと、大正10年にヴォーリズの設計で建てられた旧八幡郵便局が現れた。クリーム色の壁に、アーチの玄関。町そのものが、時代劇の舞台のようだった。
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時が止まったような町家
今回お借りしたのは、明治の終わりごろに建てられた町家。門の脇には小さな行灯が下がり、格子の引き戸を開けると、梁の見える暗い廊下が奥へと続いていた。廊下の先には、石を敷いた小さな庭。
通りに出れば、格子窓と白壁の商家が整然と並んでいる。部屋に戻ると、障子越しの光が畳にやわらかく落ちていた。まるで時が止まったような場所にある古民家だ。
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鮒ずしのお茶漬け
朝ごはんは、滋賀名物の鮒ずしを使ったお茶漬け。ご飯に薄く切った鮒ずしをのせ、刻んだねぎを散らして、熱い出汁を回しかける。
鮒ずしは、琵琶湖でとれるフナを塩漬けにし、ご飯と一緒に半年以上漬け込んで発酵させた、古いなれずしだ。熟成されたコクのある酸味が、出汁の中にゆっくりとほどけていく。
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和舟で八幡堀めぐり
商店の看板が並ぶ通りを抜けて、八幡堀へ。天正13年(1585年)、豊臣秀次が八幡山に城を築いたとき、城下町と琵琶湖をつなぐ目的で掘られた堀だ。湖を行き来する船がここに寄港し、人と物が集まって、近江商人の発展と町の繁栄に大きな役割を果たした。
屋根と窓のついた和舟に乗り込み、畳に座って水の上から町を眺める。石垣の上に白壁の土蔵が立ち並び、葉を落とした桜の木が水面に枝を伸ばしている。情緒あふれる景色の中を、舟はゆっくりと進んだ。
舟を降りて、雪の残る石畳を歩く。土産物店の格子窓には、よし笛や近江蚊帳、琵琶湖の淡水真珠の貼り紙。白壁の通りが、まっすぐに延びていた。
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昭和レトロな食堂で昼食
昼ごはんは、赤い暖簾の食堂へ。懐かしい味わいのカレーラーメンと、近江牛を使った贅沢な他人丼が人気だという。とろみのあるカレーのスープに、キャベツと豚肉がたっぷり。他人丼は、甘く煮た牛肉を卵でとじてある。
壁にはサイン色紙がびっしりと貼られ、入口の脇には映画のポスター。テレビのCMに使われたり、映画関係者にも人気の食堂だそうだ。居心地のいい、昭和レトロな店だった。
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焼きたてのつぶら餅
日牟禮八幡宮の参道にある和菓子店へ。木の看板の下、長い軒先に赤い毛氈の縁台が続いている。ここでしか食べられない焼きたての「つぶら餅」は、サクサクと香ばしい、あんこ入りの小さな焼き餅だ。
囲炉裏のある座敷に腰を下ろし、かまどから湯気の上がる店内で、舟の形の器に盛られた三つの餅を楊枝でつつく。サービスの小豆茶が、素朴な甘さによく合った。
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草屋根の建物と八幡カステラ
しめ縄を張った大きな木の下を通り、神社の鳥居の前に建つ白雲館を眺める。明治10年(1877年)に八幡東学校として建てられた擬洋風の建物で、今は観光案内所になっている。
向かったのは、まるでジブリの映画に出てきそうな草屋根の建物、ラ コリーナ近江八幡。緑の畑の間の小道を進むと、山を背にした屋根がどこまでも続いている。中では焼き型に入ったカステラが、次々と並べられていた。
焼き立てでふわふわの「八幡カステラ」が人気の店。窓の外の草地を眺めながら、紅茶と砂時計を前に、手で割ってみたくなる形のカステラをほおばる。優しい甘さで、いくらでも食べられそうだった。
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赤こんにゃくと日野菜漬け
石垣の脇に建つ漬物店に寄った。軒には「日野菜 漬かりました」の幟。籠には、気になる存在だった名物の赤こんにゃくが、桃色の袋に入って山と積まれている。
鮮やかな紅紫色と細長い形が目を引く日野菜漬けは、渦巻きのように巻いてパックされていた。店の奥には「近江名産 日野菜」の垂れ幕。今夜の食卓用に、どちらも買って帰ることにした。
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近江牛の店と、新町通りの帰り道
しめ縄と藁の飾りが下がる神社の鳥居を抜けて、「近江牛」の文字を看板に掲げた精肉店へ。昔ながらの近江牛を扱う店で、壁には牛を引く人や放牧の風景を写した古い写真が並び、飼っている牛の血統を記した図も掛けられていた。「近江牛」も是非、味わっておきたい。
風情ある新町通りを通って、町家に帰宅する。日が落ちると、八幡堀は橙色の灯りに照らされ、水面に桜の枝の影が揺れていた。
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近江八幡名物で晩酌
夕食は、近江八幡の名物を並べて晩酌タイム。まな板できゅうりを薄く切り、霜降りの近江牛を厚いまま焼いて、包丁で切り分ける。日本三大和牛の一つに数えられる近江牛は、日本最古のブランド牛だそうだ。シンプルに塩コショウで味わってみる。
ちゃぶ台に小鉢を並べ、ノンアルコールのビールを注ぐ。きめ細やかで滑らかな赤こんにゃくは、鉄分で赤く着色されていて、派手好きの織田信長が赤く染めさせたという説もある。見た目も華やかで、栄養も摂れる。
桃色の日野菜漬けは程よい辛味があり、丁字麩を辛子で和えた「丁字麩の辛子和え」も、この地域の郷土料理。もちもちとした麩の食感に、つい箸がのびた。
この場面から映像で見る4:0411TRAVEL JOURNAL
明治の面持ちが溶け込む町
夜、宿の門に行灯がともる。明治の面持ちが暮らしに溶け込む町、近江八幡。八幡堀は昭和の時代に一度は埋め立てが決まりかけたが、市民が堀に入って清掃を続け、計画は取りやめになった。文化や歴史を守る運動は、今も続いている。次はどんな暮らしに出会えるだろう。
この場面から映像で見る4:58THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの近江八幡メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

初雪食堂
滋賀県近江八幡市仲屋町元7
昭和レトロな雰囲気の大衆食堂。カレーラーメンと、近江牛を卵でとじた他人丼を食べた。壁にはサイン色紙が並び、入口の脇に映画のポスターが貼ってある。
出典: tabelog.com

たねや 日牟禮乃舍
滋賀県近江八幡市宮内町 日牟禮ヴィレッジ
日牟禮八幡宮のそばにある、たねやの和菓子店。かまどや囲炉裏のある日本家屋風の店内で、焼きたてのつぶら餅(あんこ入りの小さな焼き餅)を食べた。小豆茶はサービス。
出典: taneya.jp

ラ コリーナ近江八幡
滋賀県近江八幡市北之庄町615-1
たねやグループの菓子の拠点。草屋根の建物が並び、カステラショップでは焼きたてのカステラを出す。紅茶と一緒に八幡カステラを食べた。


まるたけ近江西川
滋賀県近江八幡市仲屋町中16
昭和22年創業の近江牛の店。精肉店と食堂があり、自家牧場で肥育した近江牛を扱う。店内には古い写真と牛の血統図が掛かっていた。
02作った料理

鮒ずしのお茶漬け
鮒ずしは、琵琶湖でとれるフナを塩漬けにし、炊いたご飯と交互に桶に重ねて半年以上発酵させた、滋賀県全域に伝わるなれずし。子持ちのニゴロブナを使うことが多く、正月や祭りなどハレの日に食べられてきた。1998年に滋賀県の無形民俗文化財「滋賀の食文化財」に選択されている。今回は薄く切ってご飯にのせ、出汁をかけてお茶漬けにした。
材料ご飯・鮒ずし・ねぎ・出汁
- ご飯に薄く切った鮒ずしをのせる
- 刻んだねぎを散らす
- 熱い出汁を回しかける
出典: maff.go.jp

近江牛のステーキ
近江牛は滋賀県の誇る日本最初のブランド牛で、日本三大和牛の一つともされる。町には看板や暖簾に「近江牛」を掲げた精肉店がある。今回はシンプルに塩コショウだけで、水菜の上に盛った。
材料近江牛(厚切り)・塩・コショウ
- 厚いままフライパンで焼く
- 包丁で切り分ける
- 塩コショウで味わう
出典: pref.shiga.lg.jp

丁字麩の辛子和え
丁字麩は近江八幡の名物の麩で、四角い形をしている。農林水産省の郷土料理の紹介では、「丁子麩のからしあえ」は丁稚羊羹や赤こんにゃく煮とともに、湖東地域に残る近江商人由来の郷土料理として挙げられている。もちもちと滑らかな麩に、辛子の和え衣がよく絡む。
材料丁字麩・きゅうり・辛子の和え衣
- きゅうりを薄く切る
- 丁字麩ときゅうりを辛子の和え衣で和える
出典: maff.go.jp
03土地のこと

八幡堀
天正13年(1585年)、豊臣秀吉の甥、豊臣秀次が八幡山に城を築いて町を開いたときに掘られた、全長4,750メートルの堀。琵琶湖と結ばれ、湖上を行き来する船が城下に寄港して、人と物と情報が集まり、町に繁栄をもたらした。昭和47年(1972年)に埋め立ての計画が持ち上がったが、近江八幡青年会議所が「堀は埋めた瞬間から後悔が始まる」を合言葉に浚渫と復元を呼びかけ、会員が毎週日曜に堀に入って清掃を続けた結果、県は昭和50年に工事を中止した。平成3年(1991年)、八幡堀・新町通り・永原町通りの一帯が県内で初めて国の伝統的建造物群保存地区に選定され、平成18年(2006年)には西の湖とともに全国初の重要文化的景観に選ばれた。和舟でめぐる「八幡堀めぐり」は、およそ30分の遊覧。

旧八幡郵便局
滋賀県近江八幡市仲屋町中8
大正10年(1921年)、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計で建てられた木造2階建ての洋風建築。昭和35年まで郵便局として使われ、長く空き家だったが、NPO法人「一粒の会」が保存再生し、取り壊されていた正面のスペイン風の玄関を復元した。国の登録有形文化財。現在はギャラリーやイベントの会場として、主に週末に公開されている。
出典: omi8.com tabi-mag.jp

白雲館
滋賀県近江八幡市為心町元9-1
明治10年(1877年)、近江商人が子弟の教育のために「八幡東学校」として建てた擬洋風の建物。建築費の大部分は寄付でまかなわれた。国の登録有形文化財で、現在は観光案内所として特産品の展示販売を行い、2階は企画展などに使う多目的ホールになっている。日牟禮八幡宮の鳥居の前に建つ。
出典: omi8.com tabi-mag.jp

日牟禮八幡宮
滋賀県近江八幡市宮内町257
近江商人の守り神として信仰を集めてきた古社。3月の左義長まつりと4月の八幡まつりは、国の選択無形民俗文化財に選ばれた火祭りで、左義長まつりは織田信長も愛したと伝わる。参道沿いに和菓子店や漬物店が並ぶ。
出典: gltjp.com

赤こんにゃく
近江八幡から全国に広がった郷土の食材。赤い色は三二酸化鉄によるもので、煮ても色が抜けない。派手好きだった織田信長がこんにゃくまで赤く染めさせたことから生まれたという説がある。こんにゃく特有のにおいが少なく、やわらかくてぷりぷりとした食感。
出典: maff.go.jp

日野菜漬け
日野菜は滋賀県日野町原産のかぶの仲間で、根の上部が紅紫色、下が白色の細長い形をしている。苦味と辛味を含んだ風味が特徴。漬物にすると桜の花のような色に染まり、時の天皇にも献上されたことから「さくら漬」の名で親しまれてきた。2022年に「近江日野産日野菜」が地理的表示(GI)に登録された。


明治末期の町家の宿
今回お借りしたのは、明治の終わりごろに建てられた町家の宿。古い趣を残しながらきれいに改装されていて、梁の見える廊下と小さな石の庭、障子の間がある。
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