
この旅のこと
桜の開花は九州から始まると思っていたら、ソメイヨシノがいちばん先に咲くのは東京だった。隅田川、浅草寺、上野公園、千鳥ヶ淵、目黒川、そして三つの桜坂。四国の桜が見頃を迎えると、西へ戻って香川の紫雲出山へ。伯方島の開山公園、金刀比羅宮、父母ヶ浜を訪ね、さぬきうどんと骨付鳥も味わった。行き先は桜のみぞ知る、東へ西への桜旅。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
ソメイヨシノは東京から
桜の開花は、九州から始まるものだと思っていた。南から北へ旅をすれば、咲いていく桜を次々に追いかけられるはず。ところが開花予想を確かめると、ソメイヨシノがいちばん最初に咲くのは東京だった。
それならと、まずは隅田川へ。川沿いの並木は満開で、枝の向こうに東京スカイツリーがそびえている。花の下の遊歩道を人々が行き交い、鉄橋を電車が渡っていった。
滝廉太郎の「花」に歌われた、春の隅田川。対岸にも桜が帯のように続き、川面を船が行き来する。春爛漫の隅田川を歌ったこの曲が生まれたのは、明治時代のことだ。
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明治の帝都の花見
浅草では、いちごの和菓子の店「浅草そらつき」に寄った。品書きには、いちごのどら焼きや、いちご団子が並んでいる。白い団子に苺をのせた串を一本、紙に包んでもらった。
団子を手に、浅草寺の境内を歩く。朱塗りのお堂のまわりで、しだれ桜が大きく枝を広げていた。
明治の帝都、東京のお花見。さぞかし浪漫にあふれていたのだろう。
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上野の屋台と不忍池
浅草からほど近い上野公園へ。石段を上ると、提灯を連ねた桜並木がどこまでも続いていた。日本でいちばん多くの花見客が訪れる場所だという。
通りには、たくさんの屋台が並ぶ。鉄の焼き型には小さな人形焼きがずらりと並び、隣の屋台ではたこ焼きの仕込みが進んでいる。わくわくする、お祭りの雰囲気だ。
不忍池には、色とりどりのボートが浮かんでいた。水の上から眺める桜も、いいなあ。
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お堀に枝を伸ばす、千鳥ヶ淵
千鳥ヶ淵では、お堀に向かって桜が枝を伸ばしていた。水面に届きそうなほど花が垂れ、その下を手こぎボートがゆっくり進んでいく。
柵のところには、花を眺める人が並んでいる。私もスマートフォンを構えて一枚。太い幹から張り出した枝が、お堀の上を覆っていた。
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昭和生まれの目黒川の桜
おしゃれな飲食店が多く、若い人に人気の目黒川へ。川沿いの店先では、細いグラスに苺がひと粒ずつ落とされていた。
苺の串を挿した、泡の立つ苺の飲み物。桜を背に、写真に収める。両岸から伸びた枝が川面を覆い、橋の上は花見の人でいっぱいだった。
目黒川の桜は、昭和生まれ。昭和のはじめの川の改修工事のときに、地域の人たちが両岸に植えたのが始まりだという。東京のモダンな街の発展とともに生きてきた桜だ。
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赤坂と六本木の桜坂
次は、桜坂をめぐってみよう。東京には、三つの桜坂があるという。
まずは赤坂と六本木へ。ビルの間の坂道が、桜のトンネルになっていた。坂の標柱によると、明治の中ごろに新しく通された道で、坂の下に戦災まで大きな桜の木があったことから、この名が付いたそうだ。
歩道橋のそばを抜けると、ガラス張りのビルに沿って桜並木が続く。喧騒から少し離れた、都会のオアシスだ。
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田園調布の桜坂
三つめは、福山雅治さんの歌「桜坂」で知られる、田園調布の桜坂。花びらの散り敷く坂道に、「桜坂」の標柱が立っている。
透明な袋から取り出したのは、ピンクの生地で苺と生クリームを包んだお菓子。坂の上には赤い橋が架かり、桜を見下ろす人たちが集まっていた。私も橋の上から、花に覆われた坂道を写真に収める。
この大都会の東京も、桜の咲く季節は、少しだけ時間がゆったり流れる気がする。
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西へ戻って、紫雲出山
東京の桜を楽しんでいるうちに、四国の桜が見頃を迎えた。次は西へ戻って、四国へ。香川県の絶景の桜の名所、紫雲出山(しうでやま)を目指す。
山へ向かうと、「紫雲出山 マイカー入山記念くじ」のテントが出ていた。看板には「当たりました色の箱から1つお取りください」とある。色分けされた箱から、ひとつ取り出した。
山頂からは、息をのむほど美しい景色が広がっていた。霞む瀬戸内海に島々が浮かび、眼下の入り江に沿って町が続く。柵沿いの桜の下を歩けば、澄んだ空の青と桜のピンク。夢のような眺めだった。
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おとぎ話の山
紫雲出山は、浦島太郎の伝説にゆかりのある地だ。浦島太郎が玉手箱を開けたときの白い煙が、紫の雲となって山にたなびいた。それが山の名の由来だと伝えられている。
一面の桜の林を抜けると、木々の向こうに海がのぞく。岩のそばでは、桜の古木が大きく枝を広げていた。はて、私もおとぎ話の世界に迷いこんだのか。
山頂近くには、「紫雲出山遺跡のあらまし」の案内板と、弥生人の人形が立つ建物があった。紫雲出山遺跡館と思われるその建物の、窓辺のカウンター席に座ると、ガラスいっぱいに島々が広がる。苺をたっぷりのせたアイスを手に眺める、この神秘的な景色は、どうやら現実の世界のようだ。
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伯方島、開山公園の夕暮れ
瀬戸内の島へも渡った。しまなみ海道が通る愛媛県の伯方島にある、開山(ひらきやま)公園。空から見ると、山頂一帯が桜でピンク色に染まっていた。山の上には木の展望台が立ち、遠くに橋が見える。
夕日が島々の向こうへ傾いていく。夕焼けに照らされた桜の先に、瀬戸内海の多島美が広がっていた。
島と島をつなぐ橋たち。白い斜張橋が、夕暮れの海をまたいでいる。桜の枝の下から海を眺めながら、四国の春の情景に、心から感動した。
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香川に来たからには、うどん
香川に来たからには、これだけは食べておきたい。気軽に入ったうどん店は、注文口で頼んで、天ぷらを自分で取るセルフのお店だった。
並んだ天ぷらからひとつ選び、うどんの丼を受け取って席へ。ねぎをのせた小さな丼も、テーブルに並べた。
麺を持ち上げると、驚くほどみずみずしくて、もちもちしている。本場のうどんは、こうも違うものなのか。桜を追う旅は、まだまだ始まったばかり。それにしても、四国のうどんはなぜこうもおいしいのだろう。
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こんぴらさんの長い石段
香川県西部の琴平町にある金刀比羅宮(ことひらぐう)へ。古くから「さぬきのこんぴらさん」として親しまれてきた、海の神様だ。参道の長い長い石段で知られ、御本宮までは785段ある。
石段の両側には、土産物店が軒を連ねている。店先には「冷たい飲み物あります!」の札。振り返ると、屋根の向こうに町並みと山が見えた。
石灯籠のそばに桜が咲き、「しあわせさん。こんぴらさん。」の幕を掲げた青銅の鳥居へ、石段を上っていく。上るほどに、眼下に讃岐の町が広がった。境内の桜が満開になると、表参道や裏参道、神苑を歩きながら花見ができる。長い石段の疲れも吹き飛ぶ、美しい春の境内だった。
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父母ヶ浜、空を映す水面
香川の人気の浜、父母ヶ浜(ちちぶがはま)にも足を運んだ。遠浅の浜が沖まで続き、三脚を立てて海を狙う人の姿もある。浜辺に佇む「書店」に立ち寄ると、のれんには「百歳書店」の文字。並んでいるのは本ではなく、地域に根ざした地元の商品と、その商品がもつ「物語」だ。
瀬戸内海産のあんちょびの瓶を手に取り、そばに立てかけられた冊子を開く。表紙には「瀬戸内からの恩返し」、創業は明治四十五年とあった。
日が傾くと、浜の潮だまりが鏡になる。「日本のウユニ塩湖」とも呼ばれる父母ヶ浜。とくに夕暮れどきは、水面に美しい空を映し出す。沈んでいく夕日と私の影が、水の上にもうひとつ浮かんでいた。
この場面から映像で見る6:5514TRAVEL JOURNAL
骨付鳥と、桜のみぞ知る旅
夜は、香川名物の骨付鳥。丸亀の夜の通りに、「骨付 丸亀鳥」の看板を掲げた店があった。入口には「骨付鳥」の大きな看板が立っている。
ジョッキのビールで、ひと息。運ばれてきたのは、かいわれ大根をたっぷりのせた骨付きのもも肉だ。紙ナプキンで骨をつかんで、かぶりつく。かぶりつくというしぐさが、またおいしさを引き立てる料理だと思う。
単純に九州から北上するつもりだった桜旅は、思いもよらず東へ西へ。目的地は、桜のみぞ知る。それもまた一興だ。
この場面から映像で見る7:48THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの桜旅メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

浅草そらつき
東京都台東区浅草1-36-4
浅草寺の近く、仲見世通りの裏通りにある、いちごを使った和菓子の店。白い団子と苺を合わせた「いちご団子」が看板で、いちごのどら焼きもある。白い団子に苺をのせた串を一本買い、浅草寺の境内で手にした。
出典: rurubu.jp kinarino.jp

目黒川沿いの店(苺の飲み物)
目黒川沿いの店先で、細いグラスに苺を入れ、苺の串を挿した、泡の立つ飲み物を買った。

紫雲出山遺跡館の喫茶コーナー
香川県三豊市詫間町大浜乙451-1
紫雲出山の頂上近くにある、弥生時代の遺跡の出土品を展示する館。館内の喫茶コーナーは眺めがよく、ぜんざいや紫雲出山オリジナルのドリンクがあるという。窓辺のカウンター席で、この喫茶のものと思われる苺をのせたアイスを手に、瀬戸内海の島々を眺めた。

香川のセルフうどんの店
注文口で頼み、天ぷらを自分で取るセルフ式の店。天ぷらをひとつ選んで、ねぎをのせたうどんを食べた。驚くほどみずみずしく、もちもちした麺だった。

百歳書店
香川県三豊市仁尾町仁尾乙2686-3
父母ヶ浜にある店。名前に「書店」とあるが本は売っておらず、百年続いてきたもの、これから百年続けていきたいものを伝えたいという思いから名付けられた。地元の食品や調味料、工芸品などが並び、生産者の思いをつづった本が置かれている。瀬戸内海産のあんちょびの瓶と、「瀬戸内からの恩返し」と題した冊子を手に取った。いまの三豊市観光交流局のサイトには、浜辺のこの店ではなく、仁尾町のスーパー「ショッピングストア今川」の中にある「百歳商店」が載っているので、訪ねる前に確かめてほしい。

骨付 丸亀鳥
香川県丸亀市通町87-2
JR丸亀駅から歩いて行ける、通町の骨付鳥の店。かいわれ大根をのせた骨付鳥を紙ナプキンで持ってかぶりつき、ジョッキのビールと一緒に味わった。
出典: tabelog.com retty.me
02土地のこと

紫雲出山
香川県三豊市詫間町大浜
荘内半島でいちばん高い、標高352メートルの山。約1,000本の桜(ソメイヨシノ、ヨウコウザクラ、ヤエザクラ)があり、見頃は3月中旬から4月上旬。浦島伝説が息づく荘内半島にあり、浦島太郎が玉手箱を開けたときの白煙が紫の雲となって山にたなびいたことが名の由来といわれる。山頂には約2000年前の弥生時代の高地性集落の遺跡があり、遺跡館では土器や石器を展示している。山頂の展望台からは、南に四国山地、北に瀬戸の島々を望む。

開山公園
愛媛県今治市伯方町伊方乙108-38
しまなみ海道が通る伯方島の、標高149メートルの開山の山頂にある公園。春には約1,000本の桜が咲き乱れる。頂上の展望台からは、伯方・大島大橋、大三島橋、多々羅大橋を一望できる。

金刀比羅宮(こんぴらさん)
香川県仲多度郡琴平町892-1
象頭山の東の斜面に鎮まる神社で、親しみをこめて「こんぴらさん」と呼ばれる。御本宮の御祭神は大物主神と崇徳天皇で、古くから海上守護の神として信仰されてきた。御本宮までは785段、奥社までは1,368段の石段が続く。毎年4月10日には桜花祭が行われる。
出典: konpira.or.jp

父母ヶ浜
香川県三豊市仁尾町仁尾乙273-1
約1キロメートル続く遠浅の浜。干潮と夕暮れが重なり、「瀬戸の夕凪」で風がやむころ、潮だまりが鏡のようになり、南米ボリビアのウユニ塩湖のような写真が撮れると話題になった。「日本の夕陽百選」にも選ばれた夕日の名所。
出典: mitoyo-kanko.com

東京の桜の名所
上野恩賜公園は、2月から咲く寒桜から4月中旬〜下旬が見頃の関山まで長く桜が楽しめ、お花見の季節には延べ330万人近い人出がある。千鳥ヶ淵の緑道は約700メートル続き、ソメイヨシノをはじめ約230本の桜が並ぶ。区営の千鳥ヶ淵ボート場もある。目黒川の桜は、昭和のはじめの改修工事のときに地域の人たちが両岸に植えたのが始まりで、いまは約800本。植え替えを経て3代目といわれる。隅田公園の言問橋のたもとには、武島羽衣作詞・滝廉太郎作曲の「花」の歌碑が、昭和31年(1956年)に建てられた。
出典: kensetsu.metro.tokyo.lg.jp visit-chiyoda.tokyo city.meguro.tokyo.jp t-navi.city.taito.lg.jp

東京の桜坂
赤坂・六本木で歩いた桜坂は、坂の標柱によると、明治の中ごろに新しく通された道で、坂の下に戦災まで大きな桜の木があったことから名が付いた。六本木の「六本木さくら坂」は、テレビ朝日周辺の再開発で平成15年(2003年)3月に生まれた、全長400メートルの坂道。田園調布の桜坂(大田区)は、もともと桜の名所として知られ、福山雅治さんの代表曲『桜坂』のモデルになったことで全国に知られるようになった。坂の上には、通称「桜橋」と呼ばれる赤い橋が架かる。最寄りは東急多摩川線の沼部駅。

丸亀名物の骨付鳥
鶏の骨付きもも肉をオーブン釜などで焼き上げた、全国的にも珍しい料理。1950年代に丸亀市の飲食店で始まったとされ、店主が観たハリウッド映画で、女性が骨付きのフライドチキンをほおばる場面がきっかけになったという。かみ応えのある「おやどり」と、柔らかい「ひなどり(わかどり)」の2種類があり、ニンニクの効いたスパイスで味付けしたものが主流。肉汁にキャベツやおにぎりを付けて食べるのもよいとされる。

さぬきうどん
「さぬき」は香川県の旧国名。香川県は県民1人当たりのうどんの消費量が日本一で、客が好みの具を選ぶ「セルフうどん」の発祥の地でもある。地元で開発された小麦、いりこの出汁、塩、醤油が味を支え、生地を足で踏んで練ることで、弾力とコシのある麺になる。うどんは、唐から戻った弘法大師(空海)が伝えたともいわれる。
出典: mlit.go.jp
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