
この旅のこと
窓のすぐ外にスカイツリーがそびえる部屋で、浅草の朝を迎えた。1962年創業の純喫茶でホットサンドを頬張り、日本最古の地下商店街では青春の味の焼きそばを。花やしきで遊んだあとは観音裏の豆かん発祥の甘味処へ、締めは雷門の隣、日本最古とされる天ぷら屋の天丼。「日本最古」の宝庫、浅草を食べて歩いた一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
スカイツリーの見える朝
窓辺に立つと、すぐそこに東京スカイツリーがそびえていた。東京の観光名所、浅草に滞在している。以前東京で暮らしていたころ、よく遊びに来た町だ。今回は「浅草のローカルグルメ」をテーマに、浅草の暮らしを楽しんでみたい。
電線の向こうにも、らせん階段のある建物の間にも、隅田川の対岸にも、スカイツリーが顔を出す。吊り看板の下がる歩道を抜け、天ぷら屋の看板の前を通って、雷門へ。大提灯の下も、シャッターの下りた仲見世も、この時間はまだ観光客が少ない。
アーケードの先にはスカイツリーが霞み、人力車が朝の通りを行く。東京の町の朝と、観光地の空気が交差している。それはまるで、路地裏から見えるスカイツリーのようだ。
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芸人の町、浅草六区
仲見世通りを西側に抜けると、そこは浅草六区。大正から昭和にかけて、東京の娯楽の中心だった一帯だ。古風な街灯が並ぶ通りの脇に、細い路地が奥へと続いている。
ビートたけしが芸人として出発した浅草フランス座は、演芸場「東洋館」として今も現役だ。シャッターには芸人の絵が描かれ、切符売場の扉には「本日は終演致しました」の札。晩年の永井荷風も、熱心に浅草へ足を運んでいたという。
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六区の純喫茶
そんな浅草の芸人や文化人が好みそうな純喫茶が、今も現役で、浅草の暮らしの一頁になっている。「自家焙煎 珈琲」の看板を掲げたローヤル珈琲店だ。店先の黒板には、厚焼き、ジャム、ハム、タマゴ、チーズと、トーストの名前が並んでいた。
窓辺に置かれているのは、創業当時から働いているという焙煎機。店内は、1962年の創業時から変わらないという。赤いビロードの席に腰を下ろすと、その焙煎機で煎った豆のコーヒーが運ばれてきた。浅草の朝に、元気を与え続けている一杯だ。
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サクサク、とろとろのホットサンド
そして、ここでぜひいただきたいのがホットサンド。一番人気はコンビーフだけれど、私はタマゴチーズを選んだ。こんがり焼き目のついたパンを持ち上げると、とろけたチーズがどこまでものびる。外は軽くてサクサク、中はとろとろ。
壁には、地元への愛を感じる絵。人でぎっしりと埋まった、にぎやかな一枚だ。天井では、シャンデリアが店を照らし続けている。窓からほんのりと入る自然光と、ビロードの椅子が心地よい。皿に添えられたポテトチップスは、コンソメ味だった。
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日本最古の地下商店街
交差点を渡り、地下鉄銀座線の入口から階段を下りていく。ここ浅草は「日本最古」の宝庫でもある。そのひとつが、現存する日本最古の地下商店街、浅草地下街だ。1955年(昭和30年)に開業し、50メートルほどの通路に20ほどの店が並んでいる。
そば屋のカウンター、ヘアカットの店の大きな看板、占いの看板に、やきとりの提灯、古着のラック。個性豊かな店が軒を連ねていて、歩いているだけで楽しい。一体どこまで続いているんだろう。剥き出しの配管やケーブル、年季の入った看板を横目に、開業した当時に思いを馳せる。
通路の先の階段を上ると、「浅草地下街 入口」の看板の下に出た。お、ここに出るのか。覗いたことはあったけれど、入ったことはなかったな。
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06TRAVEL JOURNAL
浅草やきそば 福ちゃん
そして浅草地下街の名物といえば、なんといっても「浅草やきそば 福ちゃん」。1964年に店を開き、50年以上もの間、地下街の入口を見守ってきた。映画『PERFECT DAYS』で、主人公の平山が銭湯のあとに晩酌をする店でもある。
東京下町の定番、もつ煮込みと、目玉焼きをのせた焼きそば。壁には品書きの札がずらりと並んでいて、ほかにも沢山メニューがあるけれど、いつもこのセットを頼んでしまう。アルマイトの皿に、紅しょうがと半熟の目玉焼き。もつ煮込みには、大根と輪切りのねぎがたっぷり入っていた。やっぱり美味しい。
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目玉焼きは大切に崩して
目玉焼きは、大切に崩して。とろりと流れ出た黄身を、焼きそばに絡めて食べる。
もちっとした太めの麺は、浅草の老舗の製麺所、浅草開化楼のもの。カウンターの脇にも「開化楼」の名が入った麺箱が積まれていた。氷の入ったグラスを傾けながら、思う。私の青春の味だ。
店をあとにして地上へ上がると、松屋浅草の時計台が青空に映えていた。
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日本最古の遊園地
次に向かったのは、浅草花やしき。1853年(嘉永6年)に開園した、日本最古の遊園地だ。始まりは、牡丹や菊の花園だったという。メリーゴーランドの電飾がきらめき、赤い橋のかかる庭には「開園百七十周年」ののぼりが立っていた。
高い通路からは、スカイツリーと浅草寺の五重塔が並んで見える。その手前を走るのは、1953年に生まれた、日本に現存する最古のローラーコースター。下町浅草をスリリングに駆け抜ける人気のアトラクションだ。私も何か乗ってみよう。
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町の上を飛ぶように
階段を上り、上のレールから吊られた赤いゴンドラに乗り込んだ。ゆっくりと園内の上を進んでいくと、コースターのレールや家々の屋根、浅草寺の五重塔が、すぐそばを流れていく。町の中を飛んでいるみたいで楽しい。
それから、射的にも挑戦した。銃を構えて、赤い棚に並ぶ景品を狙う。まさか仕留めるとは思わなかった黄色いアヒルが、手のひらにやってきた。名前は「花やん」にした。
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観音裏の豆かん
飲み屋の並ぶ路地を抜けて、言問通りを越えて北へ行ってみよう。そこは「観音裏」と呼ばれる静かな界隈。かつて花街として栄えた一帯で、今も当時の面影を残す建物が点在している。落ち着いた江戸の下町情緒を感じる。
赤いテントの「甘味処 梅むら」は、1968年(昭和43年)から続く、豆かん発祥の甘味処。のれんには「高級甘味 しるこ」の文字。風味豊かな豆と、つるつるの寒天がすばらしく、老舗の味を求めて遠くから訪れる人も絶えないそうだ。漫画『孤独のグルメ』でも紹介された店として知られている。
今回は贅沢に、クリームあんみつを。寒天に赤えんどう豆、あんこ、さくらんぼ、みかん、砂糖をまぶした色とりどりの角切り、そしてアイスクリーム。遊園地の余韻にぴったりな、楽しい味だ。一度食べたら、また食べに来たくなる。
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11TRAVEL JOURNAL
胡麻油の香りに誘われて
浅草といえば、もんじゃ。鉄板焼きの店の看板が、青空に突き出している。はたまた、ホッピー通り。通りでは、ビールの樽やケースが運び込まれていた。人形焼も忘れてはいけない。ガラス越しに、焼き上がった人形焼が手際よく取り出されていく。
それに加えて、一に浅草、二に観音、三に三定の天ぷら。雷門にまで広がりそうな胡麻油の香りに誘われて、天ぷらの三定へ。紺ののれんの奥には、おみやげ売場。店先の品書きの前で、足が止まった。
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雷門の隣で、180年
階段を上がって、窓辺の席へ。箸袋には海老の絵と、「創業天保八年」「雷門 三定」の文字。こちらもまた、現存する店では日本最古とされる天ぷら屋さんだ。天保8年(1837年)、三河から江戸に出てきた定吉が、人形町の自宅前で天ぷらの屋台を開いたのが始まり。三河屋定吉を縮めて、三定と名づけられた。雷門の隣で180年以上にわたり、愛されてきた。
店の主人は、必ず調理場に立たなければならない。その掟を守り続け、店は今も雷門の一店だけだという。卓には、ノンアルコールビールの瓶と染付の土瓶。小鉢のもずくには、おろし生姜ときゅうりがのっていた。
そんな守り抜かれた味との対面に、胸が高鳴る。丼のふたを持ち上げると、海老の尾がのぞいた。
この場面から映像で見る10:1113TRAVEL JOURNAL
江戸から続く天丼
胡麻油の香ばしさに、口いっぱいに広がる海老の旨み。濃い色の衣は、見た目よりも軽い。見た目にも美しい、キリッとしたタレ。それをまとって、ふっくらと炊かれたご飯もたまらない。ほっぺたが落ちる。
江戸の時代から、浅草寺の参拝客もここで、この天丼に舌鼓を打っていたのだろうか。江戸から続くおいしさに、思いを巡らせる。牡蠣の天ぷらも追加して、天つゆにくぐらせた。
江戸の時代から、日本の演芸の中心だった浅草。そんな歴史に寄り添ってきたローカルグルメは、おいしいだけでなく、どこか心が踊る。浅草の借り暮らし、奥が深い。後編へつづく。
この場面から映像で見る11:03THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの浅草メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

ローヤル珈琲店 本店
東京都台東区浅草1-39-7
1962年創業の純喫茶。創業当時から使っているという年代物の焙煎機で豆を自家焙煎し、店内は創業時からほとんど変わらない。シャンデリアと赤いビロードの席、壁の大きな絵。ホットサンドはコンビーフチーズが一番人気で、今回はタマゴチーズをコーヒーと一緒に。添えのポテトチップスはコンソメ味だった。

浅草やきそば 福ちゃん
東京都台東区浅草1-1-12 浅草地下街
浅草地下街の入口にある、1964年開店の店。鉄板で焼く太めの麺のソース焼きそばが名物で、アルマイトの皿で出てくる。目玉焼きはトッピングで追加できる。今回も、もつ煮込みと目玉焼きのせ焼きそばのセット。映画『PERFECT DAYS』では、主人公の平山が銭湯のあとに晩酌をする店として登場する。
出典: tabi-mag.jp press.moviewalker.jp macaro-ni.jp tsunagujapan.com

甘味処 梅むら
東京都台東区浅草3-22-12
観音裏にある、1968年(昭和43年)から続く甘味処。元祖を名乗る名物の豆かんてんは、ふっくら煮た赤えんどう豆と寒天に、すっきりした黒蜜。今回はクリームあんみつを頼んだ。のれんには「高級甘味 しるこ」とある。漫画『孤独のグルメ』でも紹介された。

雷門 三定
東京都台東区浅草1-2-2
天保8年(1837年)創業の天ぷら屋。三河から江戸に出た定吉が人形町で始めた屋台が起こりで、「三河屋定吉」から三定の名がついた。胡麻油をたっぷり使った江戸前の天ぷらで、天丼は並・上・特上がある。店の主人は必ず調理場に立つという掟を守り、店は雷門の一店だけ。今回は天丼と、追加の牡蠣の天ぷら、ノンアルコールビール。
出典: tempura-sansada.co.jp tempura-sansada.co.jp tempura-sansada.co.jp dime.jp
02土地のこと

浅草寺の雷門と仲見世
雷門は浅草寺の総門で、正式名称は「風雷神門」。門の左右に風神と雷神をまつることに由来する。下がる大提灯は高さ3.9メートル、幅3.3メートル、重さ約700キロ。雷門から宝蔵門までのおよそ250メートルには、参道の両側に朱塗りの店が並ぶ仲見世が続き、貞享2年(1685年)ごろがその発祥とされる。

浅草六区と東洋館
浅草寺の西側、浅草1・2丁目の一帯で、「公園六区」とも呼ばれる。天保12年(1841年)の火事のあと、幕府は芝居小屋を浅草の猿若町へ移させ、江戸三座が一か所に集まった。これが、浅草が娯楽の町として育つきっかけになったとされる。大正から昭和にかけては東京の娯楽の中心で、浅草オペラや軽演劇もここから生まれた。昭和26年(1951年)に開業したストリップ劇場「フランス座」は、ビートたけし(北野武)が芸人として出発した場所で、今は「浅草フランス座演芸場東洋館」として続いている。晩年の永井荷風の日記には、ほぼ連日「浅草」の2字が書き込まれていたという。

浅草地下街(浅草地下商店街)
東京都台東区浅草1-1-12 地下1階
1955年(昭和30年)に開業した、現存する日本最古の地下商店街。東京メトロ銀座線の浅草駅から、新仲見世側の6番出口へ抜ける地下にある。およそ50メートルの通路に、20ほどの店が並ぶ。銀座線沿いにつくられた3番目の地下街だという。
出典: tabi-mag.jp

浅草開化楼の麺
1950年創業の製麺所、浅草開化楼。台東区の稲荷町にあり、店主ごとに理想の麺を聞き取って、その店だけの麺をつくる。福ちゃんの焼きそばのもちっとした太めの麺もここのもので、店のカウンターの脇には「開化楼」の麺箱が積まれていた。
出典: nippon.com

浅草花やしき
東京都台東区浅草2-28-1
江戸時代の終わり、嘉永6年(1853年)に牡丹や菊の花園として開園し、日本で最も古い遊園地として今も営業している。1953年(昭和28年)に生まれたローラーコースターは、日本に現存する最古のコースター。園内には開園百七十周年ののぼりが立っていた。今回は上のレールから吊られたゴンドラに乗り、射的で黄色いアヒルを仕留めた。

観音裏
浅草寺の裏手、言問通りを渡った北側に広がる閑静な界隈。かつて花街として栄え、数えるほどになった料亭や、当時の面影を残す建物、代々の味を受け継ぐ店が点在する。近年はビストロやカフェも増えている。
出典: timeout.jp

豆かん(豆かんてん)
ふっくらと煮た赤えんどう豆と寒天に、黒蜜をかけた甘味。観音裏の梅むらが元祖を名乗る名物で、豆かん発祥の店として紹介されている。漫画『孤独のグルメ』の原作第1巻には「東京都台東区浅草の豆かん」の話が収められている。今回はクリームあんみつを選んだが、器の中にも赤えんどう豆と寒天が入っていた。

ノンアルコールビール「アサヒ ドライゼロ」
三定の席で飲んだのは、アサヒビールのノンアルコールビールテイスト飲料「ドライゼロ」。アルコール分0.00%の炭酸飲料で、瓶には「ノンアルコール」「カロリーゼロ」「糖質ゼロ」と書かれている。
出典: asahibeer.co.jp

スカイツリーの見える部屋
今回お借りしたのは、窓のすぐ外にスカイツリーがそびえる部屋。浅草の町を歩いて回る拠点にした。
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