
この旅のこと
気温が下がり、富士山がきれいに見える季節になると、この町に来たくなる。アーケード名店街の朝市で手作りの「あじ寿し」を買い、富士山と淡島を眺めながら海辺で朝ごはん。築90年の古民家宿に荷を下ろして、沼津港では念願の海鮮かき揚げ丼。港と由比の直売所で集めた駿河湾の宝物を、夜は「沼津丼」にした。翌朝は一晩漬けたアジで鯵茶漬け。今年も沼津で、暮らすように旅をした。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
富士山がきれいに見える季節
気温が下がり、富士山がきれいに見える季節。この時期になると、この町に来たくなる。トランクを提げて「長浜」のバス停に降り立つと、防波堤の向こうに淡島が浮かび、その上に雪をかぶった富士山が頭を出していた。
港には黄色い船が停まり、岸辺のみかんの木には実が色づいている。白い船の浮かぶ海を、カモメが並んで眺めていた。
この場面から映像で見る0:2502TRAVEL JOURNAL
アーケード名店街の朝市
まずは、地域の朝市をのぞいてみよう。伊豆箱根バスの「アーケード名店街」の停留所で降りると、朝の光の中に商店街のアーケードが続いていた。毎月1日に開かれる朝市「朝イチ」が、ちょうど滞在と重なった。
歩道にはコンテナや台を並べた出店が並び、削り節やだしパックを売る乾物屋もある。緑の籠に「寿司・釜めし 福六寿」の札を掛けた出店で、海辺の町ならではの手作り「あじ寿し」を見つけた。隣の籠には「日本一の穴子丼」の札。「日本一」は、また今度のお楽しみに。
アーケード名店街のゲートをくぐって、海へ向かう。
この場面から映像で見る0:4403TRAVEL JOURNAL
海で朝ごはん
この町に来たら、やはり海で朝食を食べたい。袋を提げて防波堤沿いの道を歩くと、正面に富士山がそびえている。
防波堤に腰かけて、膝の上でパックを開ける。寿司好きにとっては、まるで宝石のように見える「あじ寿し」。銀色の皮が光る肉厚のアジに、大葉の香り。晴れ渡る駿河湾と地元の味に、歓迎されている気分だった。木の枝越しに、富士山がずっとこちらを見ていた。
この場面から映像で見る1:2404TRAVEL JOURNAL
今年も沼津の借り暮らしが始まる
石塀と庭木に囲まれた門をくぐって、しばらくの間、お邪魔します。今回お借りしたのは、海辺の町に建つ築90年の古民家宿。海まで歩いて1分とかからない。
ガラス窓の板の間にソファ、障子の向こうに畳の間、板壁の長い廊下。ガスの火にかけた細口のやかんが湯気を上げる。庭の松を眺めて座ると、障子の桟が影を落とした。今年も沼津の借り暮らしが、はじまります。
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念願の海鮮かき揚げ丼
「久連」のバス停の標識の向こうに、夕方の光を受けた富士山。縁側でひと休みしてから、沼津港へ向かった。
以前この町に来た時に気になっていた、海鮮かき揚げ丼。「魚河岸 丸天」の看板の店で運ばれてきたのは、丼から塔のようにそびえるかき揚げ。さて、どうやって食べようか。箸で頂上を崩し、倒して天つゆをかける。海老と貝柱の旨味と、玉ねぎの甘さの一体感。
食べきれるかなと思ったけれど、最後まで飽きなかった。瓶のノンアルコールビールをグラスに注いで、好奇心もお腹も、幸せで満たされた。
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沼津港で、夕食の食材を
散歩がてら、夕食の食材を買って帰ろう。「サスヨ海産市場」の看板、「沼津魚市場」の建物、魚の形をした「海幸市場」の看板。幟と看板が並ぶ魚市場前の通りを歩く。
「四代目弥平」の看板を掲げた干物店の店先には、魚の形の値札を立てた干物の台。店内のケースには「金目鯛の干物 1枚」の札。駿河湾の旨味が詰まった、沼津のアジの開きをここで。
この場面から映像で見る3:3707TRAVEL JOURNAL
駿河湾の桜色の宝物
さらに駿河湾の海のお宝を集めていく。空に向かって立つ赤い桜えびのモニュメントの先に、「桜えび・しらす 由比港漁協直売所」の白い建物があった。
冷蔵ケースには「冷凍生桜えび 200g」のパック。売り切れることもあるらしく、タイミングや良し。「大漁」の旗の横の貼り紙には、桜えび漁は夕方から夜、凪の日だけ出漁し、順調に獲れた翌朝に生えびが入荷すると書いてあった。
この場面から映像で見る3:5908TRAVEL JOURNAL
海辺の町と、みかん色
養殖のいかだが浮かぶ内浦の海を、小舟がゆっくり進む。岸に並ぶ船、海辺に停まる「沼津駅」行きの東海バス。海辺の町って良いな。
海沿いの直売所には、木のテーブルにみかんと、みかんジュースの瓶が並んでいた。窓の向こうは海と島。駿河湾の美しいブルーと、蜜柑色の補色が美しい。この地域は、古くから蜜柑栽培の歴史がある。倉庫には「西浦みかん」の箱と黄色いコンテナが積まれていた。「富士山を眺めながらの蜜柑狩り」、楽しそうだな。
この場面から映像で見る4:2009TRAVEL JOURNAL
こたつでみかん
こたつのスイッチを入れて、冬のスイッチが入りました。電球の下、窓の外に海を見ながらこたつに入る。こたつで暖を取りながら、みかんで栄養補給。
美味しい上に、手で皮が剥けるし日持ちもする。「こたつでみかん」は先人の叡智かもしれない。
日が傾くと、駿河湾の向こうの富士山が夕焼けに染まった。陸に上げた漁船の向こうにも、富士山。昔ながらの、日本の冬の暮らし。夜、古民家の窓に明かりがともる。
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駿河湾の宝物で、沼津丼を作る
晩ごはんの支度。グリルの扉を開けて、駿河湾の旨味が詰まった沼津のアジの開きを焼く。炊飯器のご飯が炊きあがったら、焼いたアジを骨からほぐして、炊きたてご飯に混ぜる。
さらにアジのお刺し身はタタキに。包丁で細かく叩いて、半分は鉢に入れて白ごまと醤油で漬けておく。これは明日の朝のお楽しみ。駿河湾の桜色のお宝は、半分をかき揚げに。衣と混ぜて琥珀色の胡麻油に落とすと、美味しそうに揚がった。
青い丼のアジご飯に刻み海苔を散らし、大葉の上にアジのタタキと生しらすを乗せて、生桜えびと青ねぎを乗せたら「沼津丼」の完成。
この場面から映像で見る5:56





















11TRAVEL JOURNAL
駿河湾の海の幸、満喫セット
缶のノンアルコールビールをグラスに注いで、駿河湾の海の幸、満喫セットのできあがり。沼津丼に、桜えびのかき揚げ。手を合わせて、いただきます。
醤油を回しかけて、生しらすと桜えびとアジを一緒にほおばる。沼津の海の名産、鰺・桜えび・しらすが一度に。本来はアジの干物の炊き込みご飯がベースだそうだけれど、旅先なので作り方は簡単にした。駿河湾の宝石が、わたしの五感を幸せにしてくれる。
木の笠の電球の下、柱時計の針は8時を回っていた。まんぷく満足で、また明日。
この場面から映像で見る7:0312TRAVEL JOURNAL
翌朝の鯵茶漬け
朝、庭木の向こうに古民家の板壁とガラス窓。海辺に出ると、駿河湾の向こうに富士山がくっきりと見えた。畳の間に朝の光が差し込む。
朝市で購入した、鰹のだしパックで出汁を取る。片手鍋が沸いて、美味しい日本の朝の香りに目が覚める。一晩寝かせたお刺し身も、良い感じに仕上がっている。琥珀色のアジを白いご飯に並べ、刻み海苔と青ねぎを散らす。このまま食べてしまいたいのを、ぐっと堪えて。
あつあつの出汁をかけて、鯵茶漬けだ。窓辺で茶碗を抱えてかき込む。沼津の楽しい思い出が染み込んだ味。
この場面から映像で見る8:1913TRAVEL JOURNAL
また来年
朝の光が差す畳の間を見渡して、玄関の式台に腰かけ、トランクに手を置く。今年もこの町に来ることが出来て良かった。
「長浜」のバス停のベンチに座って、富士山と淡島を眺める。カーブミラーの向こうからバスがやってきた。次はどんな暮らしに出会えるかな。
この場面から映像で見る9:45THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの沼津メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

福六寿(朝イチの出店)
静岡県沼津市若葉町1-43
沼津市若葉町にある、昔ながらの江戸前寿しの店。毎月1日のアーケード名店街の朝市に出店していて、ここで手作りの「あじ寿し」を買った。肉厚のアジに大葉を挟んだ、海辺の町ならではの寿司。隣の籠には「日本一の穴子丼」の札もあった。店の営業は変わるので、行く前に確かめてほしい。

魚河岸 丸天(沼津港)
昭和41年(1966年)創業の、沼津港を代表する海鮮料理の店。看板メニューは、海老や貝柱、玉ねぎを使った大きなかき揚げが丼から塔のようにそびえる「海鮮かき揚げ丼」。箸で崩して倒し、天つゆをかけて食べる。あら汁と小鉢が付いてきた。沼津港には店が 2 つあるので、行く前に公式サイトで確かめてほしい。

四代目弥平(沼津港の干物店)
沼津魚市場の向かいの通りにある干物店。店先の台には魚の形の値札を立てたアジの干物が並び、店内のケースには金目鯛の干物やサバの醤油干しもあった。「四代目弥平」は明治22年創業というマルヤ水産の干物の銘柄で、沼津港に直営店を出している。ここで買った沼津のアジの開きを、夜の沼津丼に使った。

由比港漁協直売所
静岡県静岡市清水区由比今宿字浜1127
由比漁港にある、由比港漁業協同組合の直売所。駿河湾でしか獲れない国産の桜えびを広めるために漁協が開いた店で、生や冷凍の桜えび、しらす、桜えびの沖漬けなどを季節を問わず買える。この日は「冷凍生桜えび 200g」を買った。貼り紙によると、桜えび漁は凪の日の夕方から夜にかけて行われ、生えびは順調に獲れた翌朝に入荷する。価格は時価なので、行く前に確かめてほしい。
出典: pref.shizuoka.jp

西浦のみかんの直売所
海沿いに建つみかんの直売所。木のテーブルに袋詰めのみかんと「寿太郎みかん」のジュースの瓶、缶入りの飲み物が並び、窓の向こうに海と島が見える。倉庫には「西浦みかん」の箱と黄色いコンテナが積まれていた。ここで買ったみかんを、こたつで食べた。
02作った料理

沼津丼
「ぬまづ丼」は2000年の「ぬまづ丼コンテスト」で生まれた沼津のご当地丼で、アジの干物を炊き込んだご飯を基本に、生しらす、生桜えび、アジのたたきを盛り付ける。沼津港周辺の飲食店で食べられる。沼津の海の名産、鰺・桜えび・しらすが一度に味わえる丼だ。今回は旅先なので炊き込みではなく、焼いたアジの開きをほぐして炊きたてのご飯に混ぜ、朝市と港、由比で集めた材料をのせた。
材料沼津のアジの開き・炊きたてのご飯・アジの刺身・生しらす・生桜えび・大葉・刻み海苔・青ねぎ・白ごま、醤油
- アジの開きをグリルで焼き、骨から身をほぐして炊きたてのご飯に混ぜる
- アジの刺身を包丁で細かく叩いてタタキにする
- 丼にアジご飯を盛り、刻み海苔を散らし、大葉を敷く
- アジのタタキ、生しらす、生桜えび、青ねぎの順にのせ、醤油をかけて食べる
出典: nap-camp.com

桜えびのかき揚げ
国内の桜えびの水揚げは、すべて駿河湾のもの。漁は春(3月中旬から6月初旬)と秋(10月下旬から12月下旬)の年2回で、それ以外は桜えびを守るための休漁期間だ。由比で買った桜えびの半分をかき揚げにして、沼津丼に添えた。
材料生桜えび(由比港漁協直売所の冷凍生桜えび)・天ぷらの衣・胡麻油
- ボウルで桜えびと衣を箸で混ぜる
- へらにのせて、熱した胡麻油にすべらせる
- きつね色に揚がったら、キッチンペーパーで油を切る
出典: yuikou.jp

鯵茶漬け
沼津丼を作ったときに半分残しておいたアジのタタキを、一晩醤油に漬けて翌朝の茶漬けにした。朝市の乾物屋で買った鰹のだしパックで出汁を取り、琥珀色になったアジを白いご飯に並べて、あつあつの出汁をかける。沼津の楽しい思い出が染み込んだ味。
材料アジの刺身の醤油漬け(白ごま入り)・白いご飯・刻み海苔・青ねぎ・鰹のだしパックで取った出汁
- 前の晩に、タタキにしたアジの半分を白ごまと醤油で漬けておく
- 朝、だしパックで出汁を取る
- 白いご飯に漬けたアジを並べ、刻み海苔と青ねぎをのせる
- あつあつの出汁をかける
03土地のこと

アーケード名店街の朝市「朝イチ」
静岡県沼津市 アーケード名店街
沼津駅そばのアーケード名店街で、1月を除く毎月1日の朝8時から昼ごろまで開かれる朝市。2005年に始まり、およそ50の出店に、野菜や果物、干物などの特産品のほか、乾物やパン、菓子も並ぶ。この回では、あじ寿しと、鰹のだしパックや削り節を買った。伊豆箱根バスの「アーケード名店街」停留所で降りて向かった。

沼津ひもの(アジの開き)
沼津は日本有数の干物の産地で、歌川広重の「東海道五十三次」の沼津宿にも干物を干す様子が描かれている。明治の末から大正にかけて狩野川の河口を中心に干物の問屋が軒を連ね、大正から昭和に入るころに、魚を開いて内臓を取り、塩水に漬けて天日に干す今の製法が確立した。温暖な気候と浜風、富士山からの豊かな湧き水、駿河湾の新鮮な魚、東海道線などの輸送の発達が、産地としての発展を支えたという。この回では港で買ったアジの開きを焼いて、ご飯に混ぜた。

駿河湾の桜えび
桜えびは東京湾や相模灘にもいるが、漁が許可されているのは静岡県だけで、国内の水揚げはすべて駿河湾のもの。漁期は春(3月中旬から6月初旬)と秋(10月下旬から12月下旬)の年2回で、残りの期間は資源を守るための休漁。許可を持つ船は由比・蒲原・大井川の3地区で合わせて120隻。2023年の秋漁は、11月1日の夕方に由比漁港で始まり、12月25日までの予定で行われた。

西浦みかんと「寿太郎」
沼津市の西浦・内浦・静浦の三浦地区では、およそ450年前からみかんの栽培が確認され、本格的な栽培は明治のはじめに始まった。昭和50年(1975年)、西浦のみかん農家、山田寿太郎さんが青島温州の枝変わりを見つけて「寿太郎温州」と名づけた。青島温州よりひとまわり小さく、糖度と酸度がともに高くて味が濃い。12月に収穫して貯蔵し、2月ごろから出荷される。いまでは沼津市のみかん栽培面積の半分を占め、2020年11月18日には「西浦みかん寿太郎」として農林水産省の地理的表示(GI)に登録された。

築90年の古民家宿
今回お借りしたのは、海辺の町に建つ築90年の古民家宿。海まで歩いて1分とかからず、「長浜」のバス停から富士山と淡島が見える。ガラス窓の板の間にソファ、障子の向こうに畳の間、板壁の長い廊下があり、こたつに入ると窓の外に海が見えた。夜は台所のカウンターで沼津丼を、朝は窓辺で鯵茶漬けを食べた。
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