
この旅のこと
年の瀬の京都で、大正時代の京町家を改修した宿を借りて、年を越すことにした。京極かねよのきんし丼、祇園のいづ萬のかまぼこ、下鴨神社の門前のみたらし団子、そして高瀬川沿いのサウナの梅湯。宿に戻って白味噌のお雑煮とおせちを作り、大晦日の夜は、自分で打った二八の年越しそばで一年をしめくくった。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
師走の京都、ある朝
師走の京都、ある朝。葉を落とした枝の向こうに、冬の澄んだ空の下、京都タワーと街並みが見えた。二年坂の町家の軒先には、朝の光が差しはじめている。
今年もあっという間に、年の瀬がやってきた。白川のほとりでは、葉を落とした桜と柳が川面へ枝を伸ばし、朱塗りの玉垣と巽橋の赤い灯籠が、低い朝日に照らされている。細い石の一本橋の先で、しばらくしゃがみこんで川を眺めた。
年末は、京都で過ごしてみようと思う。
この場面から映像で見る0:2302TRAVEL JOURNAL
大正の京町家で年越しを
今回お借りしたのは、大正時代に建てられた京町家を改修した宿。白壁に木の窓枠、玄関の上に丸い灯りのついた、端正な家だ。
格子戸を開けると、土間の先に畳の間が続く。吹き抜けの高い壁には色ガラスの入った窓と丸い照明があり、すりガラスの窓からは、やわらかな冬の光が入ってくる。壁には、鳥を描いた掛け軸。趣のある古民家で、年越しだ。
この場面から映像で見る0:5403TRAVEL JOURNAL
新年を迎える準備
新年を迎える準備も忘れずに。窓辺に、扇と橙色の実をあしらった小さな鏡もちを飾った。鏡もちは、新年の神様「年神様」をお迎えするためのお供え物だ。
卓には、曲げわっぱの器に青い紙で包んだ菓子と、「花斗六」と書かれた札。札によると、大粒の白花豆の味を生かした菓子で、しっとりとした甘みが楽しめるという。染付の土瓶でお茶を淹れて、ひと休みした。
大正時代にこの家で暮らしていた人は、どのような師走を過ごしたのだろう。板塀にはさまれた細い路地に、冬の日が差し込んでいた。
この場面から映像で見る1:1504TRAVEL JOURNAL
京極かねよの、きんし丼
昼は、新京極に近い老舗の鰻屋さん、京極かねよへ。明治の創業と伝わり、大正のはじめの佇まいが残るという店だ。高い天井には大きな竹籠と提灯のような照明が下がり、障子のすき間からは、炭火で鰻を焼く煙が上がっていた。
まずは、う巻き。関西のう巻きは、出汁のきいたふわふわの卵で鰻を巻いている。「かねよ」の文字が入ったグラスにノンアルコールのビールを注いで、お目当ての「きんし丼」を待つ。通常のうなぎ丼の倍も注文が出るという、看板メニューだ。
蓋を取ると、丼いっぱいに京風のだし巻き玉子。箸でめくると、タレのしみたご飯と、香ばしく焼けた鰻が現れた。出汁のきいた玉子と甘辛い鰻を一緒にほおばれば、その味わいは、まさに“口福”のひと言に尽きる。京都、良いなあ。
この場面から映像で見る1:49


















05TRAVEL JOURNAL
京都のお雑煮を、試しに
帰り道、自転車の置かれた細い路地を抜けた。お正月に欠かせない「お雑煮」は、同じ日本でも地域によって違いがあり、面白い。気になる「京都のお雑煮」を、試しに作ってみよう。
赤いにんじんを洗って輪切りにし、梅の形に抜いて、花びらに切れ目を入れる。里芋の皮をむいて鍋で煮て、京都の白みそを溶き入れた。本当は、里芋の親芋「頭芋」や雑煮大根を使いたかったけれど、旅先なので簡略に。
お餅は「焼かない丸餅」だ。湯でやわらかくした丸餅を赤い椀に入れ、にんじんと里芋を添えて白味噌仕立ての汁を注ぐと、白い汁に梅のにんじんが浮かんだ。三つ葉をのせていただくと、甘くてやさしい味がした。よし、これでお正月を迎える準備はバッチリだ。
この場面から映像で見る3:0706TRAVEL JOURNAL
祇園で、紅白のかまぼこ
さらなるお正月アイテムは、「おせち料理」。紅葉がまだ少し残る祇園へ、重箱の中を彩る紅白のかまぼこを買いに行った。
新橋通に面した「いづ萬」は、弘化元年(1844年)創業のかまぼこ屋さん。祇園で170年を超える老舗だ。「づ」の字の赤い提灯が下がる店先のガラスケースには、東山魚餅、チーズ松風、あんぺい、極上かまぼこ、御所小袖、祇園かまぼこが並んでいた。
かまぼこを手に、辰巳大明神の鳥居の前を通って、石畳の路地を歩いた。
この場面から映像で見る3:5607TRAVEL JOURNAL
下鴨神社の門前で、みたらし団子
京都の茶屋でぜひ食べたいのが、出来立てほやほやのみたらし団子。下鴨神社の門前にある、加茂みたらし茶屋へ向かった。のれんの横には、「京名物」の看板が掛かっている。
みたらし団子の発祥の地といわれているのが、京都で最も古い神社のひとつ「下鴨神社」。境内の御手洗池の底から湧き出る水の泡をかたどったのが、みたらし団子だといわれている。案内板によれば、糺の森の三本杉から湧き出る神水は、古くから人々の暮らしや田畑を潤してきた名水だという。朱塗りの楼門が、冬の日差しを受けて輝いていた。
団子は一串に五つ。焦げ目のついた団子に、甘じょっぱいたれがたっぷりかかっている。もちもちとした歯ごたえが、とても好みだ。その門前で100年以上愛されてきた、茶屋の味。
この場面から映像で見る4:2208TRAVEL JOURNAL
サウナの梅湯で、ととのう
そして京都の名物といえば、銭湯。鴨川を眺めてから、高瀬川の小さな橋を渡る。「サウナの梅湯」と大きく書かれた看板の、レトロな銭湯だ。
昔から水質の良い地下水が流れる、京都ならでは。明治から続く地域住民の憩いの場で、今年一年の疲れを癒やすのである。のれんをくぐると、招き猫と古い振り子時計。下足箱に靴を入れて、木札の鍵をかけた。
地下水を使っているという水風呂が、とても良かった。湯上がりに坪庭に面した休憩所でひと息つき、外へ出ると、夕焼けの空に京都タワーが影になっていた。夜の高瀬川に、看板のネオンが灯る。ととのった。
この場面から映像で見る4:5409TRAVEL JOURNAL
はじめての、おせち作り
大事なお正月の準備、「おせち料理作り」。おせちを作るのは、はじめてだ。旅先なので、黒豆や田作りは市販のものにして、ほかも簡略にする。
まずは伊達巻。つぶしたはんぺんと卵を混ぜた生地をフライパンに流し、蓋をして焼く。柚子は半分に切って中身をくり抜き、器に。にんじんを細く切って、紅白なますを作った。
初日の出を連想させる「かまぼこ」は、赤い部分に「魔除け」、白い部分に「清浄」の意味が込められているという。板から外して切り分け、赤い皮に切れ目を入れて、くるりと輪にした。一つひとつのお料理に願いを込めて作る、なんとも縁起の良いごちそうだ。
この場面から映像で見る5:4010TRAVEL JOURNAL
伊達巻を巻いて、重箱に
焼き上がった伊達巻を、巻きすでしっかりと巻く。切ってみると、断面にはちゃんと渦巻きが現れて、非常にそれらしく仕上がった。
おせち料理は、お正月にお迎えする年神様へのお供え物であり、かまどの神様にお休みいただくという風習でもあるという。古来より受け継がれている、素敵な日本文化だ。
黒い重箱に、伊達巻とかまぼこ、柚子に詰めた紅白なます、黒豆を詰めていく。もう一段には、花の形のれんこんや梅のにんじん、絹さやを合わせたお煮しめ。
この場面から映像で見る6:1911TRAVEL JOURNAL
大晦日、年越しそばを打つ
そして、大晦日のメインイベント。今年一年の不運や厄災を切り捨て、長寿・延命を願う、細長い「年越しそば」。今年は、自分で打ってみよう。まさか自分が蕎麦打ちに挑戦することになろうとは。
玄関の灯りがともる夜、台所で二八そばを打つ。そば粉と小麦粉を合わせて少しずつ水を加え、手でこねてひとつにまとめる。丸めた生地を手のひらで押して平らにし、麺棒で薄くのばした。
素人は失敗しやすいだろうと考えて、慎重に。薄くのばした生地をたたむときの折り目は、切れる原因のひとつになる。そこで、折り目で切れないよう、一枚ずつ切ってみた。手間はかかるが、時間ならたっぷりある。
この場面から映像で見る6:50




















12TRAVEL JOURNAL
はいよ、せいろ一枚
たっぷりの湯を沸かして、蕎麦を入れる。へいお待ち。大きな鍋の中で、蕎麦が湯に泳ぐように茹で上がっていく。
水で洗って、竹のざるに盛る。はいよ、せいろ一枚。缶のつゆを猪口に注いで、打ち立ての蕎麦をつけてすすった。
結果は、まあまあの仕上がり。歯ごたえも良く、自分で打った愛着もあって、美味しい蕎麦だった。うむ、蕎麦は打ち立てに限る。
この場面から映像で見る7:3913TRAVEL JOURNAL
おせちと、良いお年を
ふぐの絵の徳利を湯せんにかけて燗をつけ、桜柄の手ぬぐいでくるんで取り出す。銀色の器から、ふぐ柄のぐい呑みに注いだ。
金の梅を描いた重箱の蓋を開けると、柚子に詰めた紅白なます、伊達巻、紅白のかまぼこ、黒豆、田作り。もう一段には、お煮しめ。小皿に取り分けて、少しずついただいた。年齢を重ねて気づく、おせち料理の美味しさにしみじみする。
今年も一年、楽しく過ごせたことに感謝。夜の通りは静かで、町家の軒先に灯りがともっていた。来年は、どんな暮らしに出会えるかな。
この場面から映像で見る8:3314TRAVEL JOURNAL
旅で出会った、日本の四季
旅を始めて、知ることができた。さまざまな町にある、暮らしの美しさ。これまでの旅で出会った日本の四季を、振り返る。
島々を見下ろす丘の桜、夕日を映す水鏡、海に面した小さな駅のベンチ、渓谷を映すトンネル。濃い桃色の桜と水仙、空へ伸びる竹林、朱の灯籠が並ぶ石段。秋は紅葉とイチョウ、冬は雪の海辺と、雪原にぽつんと立つ木立。
2024年も、未だ観ぬ暮らしと景色に会いに行くのが楽しみだ。旅先で出会った方々、そして、この旅の様子を一緒に観てくださった方々。皆さま、良いお年をお迎えください。
この場面から映像で見る9:11





















THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの京都メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

京極かねよ
京都府京都市中京区六角通新京極東入ル松ヶ枝町456
明治の創業と伝わる鰻料理の店(大正時代の創業とする掲載もある)。創業当時の面影が残る木造の建物で、看板の「きんし丼」は、鰻丼の上に京風の大きなだし巻き玉子をのせたもの。玉子焼きは、冬場に鰻丼を冷めにくくするために考えられたともいわれる。今回は、う巻きとノンアルコールビールも頼んだ。

いづ萬
京都府京都市東山区林下町432
弘化元年(1844年)創業の、京都で最も古いといわれるかまぼこ屋。初代は出雲の出身で、日本海や瀬戸内海から鮮魚を取り寄せて、内陸の京都でかまぼこ作りを始めたという。新橋通に面した店頭にはかまぼこやあげ天が並び、三代目が考えた「東山魚餅」も名物。今回は、おせちのために紅白の「祇園かまぼこ」を買った。

加茂みたらし茶屋
京都府京都市左京区下鴨松ノ木町53
下鴨本通をはさんで下鴨神社の向かいにある、大正11年(1922年)創業の茶屋。一串に団子が五つ、最初のひとつだけ間をあけてあるのは、五つの団子が人の五体を表し、厄除けの意味があるからとされる。注文を受けてから団子を炙って焦げ目をつけ、黒砂糖をもとにした甘じょっぱいタレをかける。

サウナの梅湯
京都府京都市下京区岩滝町175
高瀬川沿いにある、明治時代創業の銭湯。廃業すると聞いた、ここでアルバイトをしていた人が継ぎ、2015年からゆとなみ社の銭湯の1号店になった。男湯・女湯ともに深風呂、浅風呂(ジェット風呂)、水風呂、電気風呂、薬湯、ドライサウナがあり、夜は高瀬川沿いにネオンの看板が灯る。地下水を使っているという水風呂が、とても良かった。
02作った料理

京都のお雑煮(白味噌雑煮)
京都を中心とした近畿地方の雑煮は、昆布だしと白みそが基本で、丸餅に里芋、にんじん、大根を合わせる。白みそは京都で生まれ、平安時代から食べられてきたとされる調味料で、白味噌の雑煮は「京雑煮」とも呼ばれる。餅は、白味噌の風味を邪魔しないよう、焼かずにゆでたものが一般的。本来は里芋の親芋「頭芋」や雑煮大根を使いたかったが、旅先なので簡略にした。
材料丸餅・白みそ・赤いにんじん・里芋・三つ葉
- にんじんを輪切りにし、梅の形に抜いて切れ目を入れる
- 里芋の皮をむき、にんじんと一緒に鍋で煮る
- 鍋に白みそを溶き入れる
- 丸餅を焼かずに湯でやわらかくし、椀に入れる
- にんじんと里芋を添えて汁を注ぎ、三つ葉をのせる

おせち料理(伊達巻・紅白なます・飾りかまぼこ)
おせちの料理には、それぞれ願いが込められている。伊達巻は着物の柄に似ていたことから着るものに困らないように、黒豆はまめまめしく働けるように。田作りは、材料のカタクチイワシを田畑の肥料に使ったことから豊作を願い、お煮しめは「ん」のつく材料で運がつくよう、めでたい材料を取り合わせるのだとか。今回は、つぶしたはんぺんで伊達巻を作る裏技を試し、かまぼこは祇園のいづ萬の紅白を使った。
材料はんぺん・卵・にんじん・大根・柚子・紅白のかまぼこ・お煮しめ(れんこん・にんじん・椎茸・絹さや)・黒豆・田作り(市販のもの)
- つぶしたはんぺんと卵を混ぜ、フライパンに流して蓋をして焼く
- 焼けた生地を巻きすでしっかり巻き、切り分ける
- 柚子を半分に切って中身をくり抜き、器にする
- にんじんと大根を細く切ってなますにし、柚子の器に詰める
- かまぼこを板から外して切り、赤い皮に切れ目を入れて輪にする
- 重箱に、伊達巻、かまぼこ、なます、黒豆、田作り、お煮しめを詰める
出典: maff.go.jp

年越しそば(二八そば)
大晦日に年越しそばを食べる習慣は、江戸時代から庶民の間に広まったと伝わる。細く長いそばの形から新しい年の延命長寿や家運の伸長を願ったり、そばが切れやすいことから一年の苦労や災厄をこの日に断ち切ったりと、由来はさまざま。もとは大晦日の夜の祝い膳の一品だったともいう。今回は、そば粉に小麦粉を合わせた二八そばを、京町家の台所で打った。
材料そば粉・小麦粉(つなぎ)・水・打ち粉・そばつゆ(缶)
- そば粉と小麦粉を合わせ、少しずつ水を加えて手でこねる
- 生地をひとつにまとめ、手のひらで押して平らにする
- 麺棒で薄くのばす
- 折り目で切れないよう、一枚ずつ切る
- たっぷりの湯で茹で、水で洗ってざるに盛る
- 猪口のつゆにつけていただく
出典: maff.go.jp maff.go.jp
03土地のこと

下鴨神社(賀茂御祖神社)
正式な名前は賀茂御祖神社。正確な創祀は分からないが、崇神天皇7年(紀元前90年)に神社の瑞垣を修造したという記録があり、1994年に世界文化遺産に登録された。境内の御手洗池は、7月の土用になると池の周りや川底から清水が湧き出すことから「鴨の七不思議」のひとつに数えられ、池の底から湧き出る水の泡をかたどったのが「みたらし団子」だといわれる。御手洗の案内板によると、応保元年(1161年)の第6回式年遷宮の記録『治承遷宮記』に、日照りのときに御手洗の御井で雨を祈ったとある。

高瀬川
鴨川に沿って流れる運河。方広寺大仏殿の再建で資材を運ぶため、豪商の角倉了以・素庵の親子が開き、慶長16〜19年(1611〜1614年)に完成した。京都の街から伏見へと流れ、二条から四条の間には舟の荷を扱う船入が9か所つくられた。鉄道の開通などを背景に、1920年(大正9年)に水運の役目を終えた。サウナの梅湯は、この高瀬川のほとりに建つ。

鏡もち
鏡もちは、新年の神様「年神様」をお迎えしたときのお供え物で、飾りの一つひとつに意味がある。鏡もちを供える風習は、室町時代に始まったといわれる。1月11日は「鏡開き」の日。
出典: maff.go.jp

大正時代の京町家の宿
今回お借りしたのは、大正時代に建てられた京町家を改修した宿。白壁に木の窓枠の外観、土間から続く畳の間、色ガラスの入った高窓、青いタイルを張った台所がある。
PHOTO ALBUM写真を見渡す190全写真をひらく一覧を閉じる
写真を選ぶと、大きな画面で一枚ずつ眺められます。





















































































































