
この旅のこと
本州最南端の町、和歌山県串本町。森の中に建つ築60年の古民家で朝を迎え、黒潮の恵みの鰹で茶漬けを作った。再生した小さな劇場、世界最北のサンゴの海を映す水族館、潮岬の碑、トルコとの絆を伝える記念館。地魚と柑橘を買って帰り、庭にはアナグマ。南国のような海と日本の原風景が残る町で過ごした、あたたかい一日。
土地と食のことを、もう少し01TRAVEL JOURNAL
本州最南端の町、森の家の朝
本州最南端の町、和歌山県串本町。森の中にある、築60年という古民家で朝を迎えた。木々の向こうに瓦屋根がのぞき、電線の上には青い空が広がっている。足元の緑には、朝の光が差していた。
庭先には折りたたみの椅子が並び、台所では炊飯器とやかんが湯気を立てている。窓の外は一面の緑だ。
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黒潮の鰹で、鰹茶漬けを
今朝は、串本の名物を作る。まな板の上で青ねぎを刻む。台所の柱には、この田並地区の手描きの絵地図が貼ってあった。
暖流の黒潮の恵みを受ける串本は、好漁場として知られる。このあたりの鰹は一尾ずつ釣り上げ、すぐに締めて氷水で冷やすから、鮮度が抜群なのだそうだ。刺身用のさくを切り分け、ごまの入ったたれに漬けて、皿に重ねていく。
ご飯の上に、たれをまとった鰹と刻み海苔、青ねぎをのせれば、串本の名物、鰹茶漬け。土瓶には熱々のだし汁を用意した。障子越しの光が畳の間に差し込む中、椀にだし汁を注ぐ。
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緑に囲まれた朝ごはん
縁側に小さな卓を出し、窓の外の緑を眺めながらいただく。鰹のもちもちした食感と、濃厚な旨味が染み渡る。
すぐそばには清流が流れ、家は美しい緑に囲まれている。外には山の水を受ける桶があり、板壁の洗面台の丸い鏡には木々が映る。心を穏やかにしてくれる場所だ。
この場面から映像で見る1:2104TRAVEL JOURNAL
別の世界のような暮らし
障子の向こうの板の間には、赤い布が梁から下がり、布団が畳んである。玄関の脇には折りたたみの椅子と赤い郵便受け。庭の片隅には、桃色の小さな花が咲いていた。
台所の窓辺には泡立て器やお玉が吊るされ、本棚のある板の間には低い机と座布団。日々の暮らしが、別の世界のことのように感じられる。
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川沿いの散歩
空気もおいしくて、散歩が気持ちいい。杉の木立を抜ける道を歩き、川沿いの道路に出た。
道端の青いかごには、収穫したばかりの玉ねぎとにんにくが干してある。橋を渡ると、川の向こうに白い大きな建物が見えてきた。
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可愛い田並劇場
町に佇む、手作り感のある可愛い田並劇場へ。白い板壁の建物で、入口には古い郵便ポストと、ビカクシダなどの植物が飾られていた。
昭和25年(1950年)に建てられ、旅回りの一座の芝居や映画の上映でにぎわったという。長く放置されて廃墟になっていたが、2014年から4年をかけて修復され、2018年の夏に映画の上映会で再び幕を開けた。今は映画や音楽、展示などの催しに使われている。窓の向こうには美術展のポスターや冊子が並んでいて、ぜひここで映画を観てみたいと思ったのだが、あいにくこの日は開いていなかった。映画はまた今度。
劇場のすぐ裏は、JR紀勢本線の田並駅。錆びた欄干の橋を渡ると、線路とホームが見えた。
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世界最北のサンゴの海を映す水族館
田並駅のホームに、列車が入ってきた。架線の向こうには緑の山。列車で向かった串本の海は、世界最北の大サンゴ群落があることで知られる。黒潮の恵みを受け、熱帯性の色とりどりの魚たちが泳ぐ美しい海だ。
串本海中公園の水族館へ。トンネル状の水槽の下に立つと、頭の上を魚の群れが横切っていく。目の前の海から直接くみ上げた海水を使い、この串本の海に棲む生き物だけを展示している。「自然のままの海の姿」を映した水族館だ。
ウミガメパークには、可愛い赤ちゃんウミガメもいた。水面の下からこちらをのぞく顔に、思わず足が止まる。
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潜水艦のような海中展望塔
赤い橋の先に、まるで潜水艦のような海中展望塔が立っている。沖合140メートル、水深6.3メートルの海底に建てられたものだ。
らせん階段を下りると、壁にはずらりと丸窓が並ぶ。窓の向こうは、魚たちが暮らすありのままの海中世界。ゆったりと散歩するように、窓をひとつずつのぞいて歩いた。地上に戻って海を見下ろし、さっきはあの辺りをのぞいていたのかな、と思う。
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海を見ながら、瀬戸内レモンケーキ
海中公園のレストランでひと休み。おやつには、瀬戸内レモンケーキを選んだ。白い砂糖衣の下はしっとりしたレモンの生地で、アイスクリームとアイスコーヒーが付いてくる。
以前訪れた「瀬戸内」の言葉に惹かれたのだ。椰子の木が並ぶ窓の外には、太平洋。この海も、あの猫の島につながっているわけか。
この場面から映像で見る4:4210TRAVEL JOURNAL
本州最南端と、トルコとの絆
松の枝の向こうに、潮岬観光タワーが立っている。潮岬は本州最南端の地。海を背にした石碑には「潮岬 本州最南端」と刻まれていた。
この町に来たら、ぜひ食べてみたかったのが「ケバブライス」。ヨーグルトソースをまとった香ばしいケバブと、白いご飯に糸唐辛子。串本町と「トルコ共和国」との絆は深く、その絆は町のレストランでも垣間見ることができる。紀伊大島の樫野崎、トルコ記念館の近くの店で、トルコ風の布を背にいただいた。
日本がトルコを救い、トルコが日本を救った。記念館の前では、トルコと日本の国旗が並んで揺れている。明治23年(1890年)9月16日、オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が樫野崎沖で台風に遭って座礁・沈没し、587名が亡くなった。大島の村民は総出で救助にあたり、69名が助かった。それから95年後の1985年、イラン・イラク戦争のさなかにテヘランに取り残された日本人を、トルコの航空機が救出した。95年の時を経た絆の物語は、ここで始まった。
記念館には、当時の写真や文書が並ぶ。窓の外には、岩礁に白い波が立つ海。日本とトルコの友好を表すように、ケバブと白いご飯は仲良く皿に収まっていた。
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地魚と柑橘と、さんま寿司
地元の商店で買い物をして帰ろう。軒先の冷蔵ケースには、パック詰めの地魚が並ぶ。「地魚」という言葉には、魅力を感じる。黄色いテントの八百屋では、かごに盛られた柑橘に「スイートスプリング」「ハッサク」の値札。地魚と名物の柑橘で、何か作ってみたい。
「新町通り」の看板がある通りを抜けて、橋杭岩を望む道の駅へ。棚には初めて見る「さんま寿司」。私は「押し寿司」の類には目がない。このあたりはマグロも有名で、マグロの胃袋のごま煮という珍しい品も手に入る。店内には大漁旗が下がり、「那智勝浦のまぐろ」の干物が並んでいた。
港には漁船が戻ってくる。大漁、大漁。
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ただいま、おかえり
木立の向こうに、古民家の玄関が見えてきた。ただいま。
「おかえり」。庭の物置の前に、白い筋の入った顔のアナグマが一匹。誰か居る?と戸口から顔を出すと、もう草むらに姿を消していた。
窓辺に置いたのは、串本産ポンカンの果汁100%のジュース。海の生き物も、山の生き物も、伸び伸び暮らしている。縁側に腰を下ろして庭を眺め、板の間で体を伸ばす。今日も串本日和。
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夕暮れの橋杭岩と、串本町まんぞくディナー
夕方、田並駅前のバス停の前を通って、橋杭岩へ。夕日を受けた岩の列が金色に染まり、海の向こうに日が沈んでいった。
夜は、串本町の地魚、トビウオの刺身と、和歌山の柑橘でカルパッチョを作ってみる。ミニトマトを切り、柑橘の皮をむいて果肉を外す。皿に敷いた葉野菜の上にトビウオの薄造りを並べ、柑橘とトマトを散らして、柑橘で作った特製ドレッシングをかける。
もう一品は、道の駅で買ったマグロの干物。焼き網にのせて炙ると、台所に香ばしい匂いが広がった。
この場面から映像で見る8:3414TRAVEL JOURNAL
初めて出会う美味しさ
串本町まんぞくディナーの完成。カルパッチョに、さんま寿司、炙った干物、マグロの胃袋のごま煮。麦芽100%のノンアルコールビールをグラスに注いだら、泡があふれた。おっとっと。
まずは、さんま寿司から。酢でしめたさんまの下に、ゆずの香るすし飯。推し押し寿司、認定。青ねぎを散らしたマグロの胃袋のごま煮も、炙った干物も、初めて食べる味だ。初めて出会う美味しさは、旅の醍醐味だな。
南国のような海と、日本の原風景が残る串本町。そこは土地も歴史も、あたたかい所だった。
この場面から映像で見る9:18THE BORROWER’S NOTES
借り暮らしの串本メモ。
立ち寄った店、台所で作ったもの、この土地のこと。旅のつづきに、覚えておきたいことを。
01立ち寄った店

海中公園レストラン アクロポーラ
和歌山県東牟婁郡串本町有田1157(串本海中公園内)
串本海中公園の水族館の隣にあるレストラン。窓の外に太平洋が広がる。おやつに、瀬戸内レモンケーキとアイスクリーム、アイスコーヒーのセットを食べた。マグロや近海の魚の定食、和歌山ラーメンなどの食事もある。

カフェ・ラパン
和歌山県東牟婁郡串本町樫野990-1
映像に店名は出てこないが、場所と品書きからこの店と思われる。紀伊大島の樫野崎、トルコ記念館へ通じる遊歩道の入口にあるカフェ。名物はビーフとチキンのケバブライスで、ヨーグルトソースをまとったケバブに白いご飯と糸唐辛子。店内にはトルコ風の布が飾られ、窓の外に海が見える。

地元の商店(魚屋と八百屋)
町なかの商店で買い物をした。軒先に冷蔵ケースを出した魚屋には、パック詰めの地魚。黄色いテントの八百屋には、「スイートスプリング」「ハッサク」の値札を立てた柑橘のかごが並ぶ。ここでトビウオの刺身と柑橘を買って、夕食のカルパッチョにした。

道の駅くしもと橋杭岩
和歌山県東牟婁郡串本町くじの川1549-8
国の名勝・天然記念物の橋杭岩を目の前に望む道の駅。さんま寿司、マグロの胃袋のごま煮、まぐろの干物を買った。店内には大漁旗が下がり、マグロの内臓や胃の加工品、うつぼの揚げ煮など串本らしい品が並ぶ。
出典: rurubu.jp
02作った料理

鰹茶漬け
たれに漬けた鰹をご飯にのせ、熱いだし汁をかけて食べる。串本の食事処の看板料理として知られる名物で、一杯目は丼のように、二杯目はお茶漬けにして食べる店もある。串本をはじめ紀南の沿岸では、明治時代にハワイから伝わったという「ケンケン釣り」で鰹を一尾ずつ釣り上げ、すぐに締めて氷水で冷やす。鮮度が高く刺身に向き、水揚げ当日のもちもちした食感から「モチガツオ」とも呼ばれる。旬は3月から5月。
材料ご飯・鰹の刺身(さく)・ごまの入った醤油だれ・刻み海苔・青ねぎ・熱いだし汁
- 青ねぎを刻む
- 鰹のさくを切り分け、ごまの入ったたれに漬ける
- ご飯に鰹をのせ、刻み海苔と青ねぎを散らす
- 熱いだし汁をかけていただく

トビウオと柑橘のカルパッチョ
串本の港には、マグロや鰹のほかトビウオやさんまも水揚げされる。町ではポンカンの栽培も盛んで、「くろしおポンカン」の名で出荷されている。地元の商店で買ったトビウオの刺身と和歌山の柑橘を合わせて、串本らしい一皿にした。
材料トビウオの刺身(串本の地魚)・和歌山の柑橘・ミニトマト・葉野菜・柑橘で作ったドレッシング
- ミニトマトを半分に切る
- 柑橘の皮をむき、果肉を外す
- 皿に葉野菜を敷き、トビウオの薄造りを並べる
- 柑橘とトマトを散らし、柑橘のドレッシングをかける
出典: ja.wikipedia.org
03土地のこと


串本海中公園(水族館・海中展望塔)
和歌山県東牟婁郡串本町有田1157
目の前の海の海水と生き物で、串本の海を再現した水族館。飼育員が自ら潜って調査・採集・飼育・繁殖を行い、世界で初めてアカウミガメの2世代・3世代の繁殖に成功した。ウミガメパークでは大きなウミガメにエサやりができる。海中展望塔は沖合140メートル、水深6.3メートルの海底に建てられ、丸窓から360度の海中を観察できる。多い時期には70種以上の魚が見られる。
出典: kushimoto.co.jp

串本の海のサンゴ
串本の沿岸海域には、世界最北の大サンゴ群生域がある。テーブル状のクシハダミドリイシやオオナガレハナサンゴの群落は国内最大規模で、高緯度の本州中部にありながら黒潮の強い影響を受けるため、熱帯魚など多くの熱帯性の生き物が棲む。2005年11月、ラムサール条約の湿地に登録された。

トルコ記念館とエルトゥールル号
和歌山県東牟婁郡串本町樫野1025-26
紀伊大島の樫野崎、トルコ軍艦遭難慰霊碑に隣接して建つ記念館。エルトゥールル号の模型や遺品、写真、文書を展示する。1890年(明治23年)9月16日、オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が樫野崎沖で台風に遭って座礁・沈没し、587名が犠牲になった。大島の村民は全村を挙げて救助と介抱にあたり、69名が助かった。この出来事は日本とトルコの友好の原点とされ、1985年のイラン・イラク戦争の際には、テヘランに残された日本人をトルコの航空機が救出した。串本町はトルコのメルシン市と姉妹都市で、2015年の映画「海難1890」の一部は串本で撮影された。

田並劇場
和歌山県東牟婁郡串本町田並1547
JR田並駅のそばに立つ、昭和25年(1950年)に建てられた劇場。全盛期には旅回りの一座の芝居や映画の上映でにぎわい、1970年ごろに閉鎖されて長く放置されていた。2014年から4年をかけて修復され、2018年の夏に映画上映会で再び開いた。今は映画の上映、音楽ライブ、展示、ワークショップ、落語会などの催しや、カフェの営業を行っている。

田並駅
JR西日本紀勢本線(きのくに線)の駅。1940年(昭和15年)8月8日に開業した。島式ホーム1面2線の地上駅で、列車の行き違いができる。駅前にはバス停「田並駅前」がある。
出典: ja.wikipedia.org

橋杭岩
串本の海岸から紀伊大島に向かって、大小約40の岩が約850メートルにわたって一列に並ぶ。約1500万年前の火山活動で泥岩の地層に流紋岩が入り込み、やわらかい泥岩だけが波に削られて硬い岩が柱のように残った。国の名勝・天然記念物で、吉野熊野国立公園に含まれる。弘法大師が天の邪鬼と賭けをして一晩で橋を架けようとし、鶏の鳴きまねに騙されて橋杭だけが残ったという伝説がある。
出典: ja.wikipedia.org

さんま寿司
和歌山県南部に伝わる郷土料理。腹開きにしたさんまを塩と酢で締め、棒状のすし飯にのせて形を整える。米と魚の保存食として発展し、秋祭りや正月、船の進水祝いなど人が集まる日のごちそうだった。締め酢に柚子やだいだいを搾ると、さっぱりと食べられる。熊野灘のさんまは身が引き締まり、すしに向くという。今回のものは「ゆず入」で、道の駅で買った。
出典: maff.go.jp

おざきのひもの(まぐろの干物)
串本町にある創業70年以上の干物店の品。和歌山近海で獲れた魚や、全国から選んだ魚を、職人が一枚ずつ手開きで加工している。道の駅で「那智勝浦のまぐろ」の干物を買い、夕食に焼き網で炙った。

くしもとぽんかんジュース
串本町の姫地区と伊串地区のポンカン生産者でつくる重ね山果樹生産加工組合のジュース。串本産ポンカンの果汁100%のストレート。組合は約50年前からポンカンを育て、皮が青いものや傷のあるものなど生果として売りにくい果実を、約20年前からジュースにしている。
出典: maff.go.jp

龍馬1865
日本ビールのノンアルコールビール。麦芽とホップと炭酸だけで造られ、添加物不使用の麦芽100%。アルコール分は0.00%。缶には、坂本龍馬が長崎で商社を興し、初めてビールを飲んだ年が1865年といわれると書かれている。
出典: nipponbeer.jp

森の中の古民家
今回お借りしたのは、森の中に建つ築60年ほどの古民家。縁側から庭の緑を眺められ、すぐそばに清流が流れる。屋外には山の水を受ける桶と、丸い鏡の洗面台。庭には野生のアナグマも現れた。
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